第9回の今週は、第29問について見ていきましょう。
[問題]
民法上の留置権に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものを組み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。
ア |
留置権も担保物権の一種であるから担保物権に共通する性質を有し、留置権者は、目的物を競売することができ、かつ、その競売代金から優先的に弁済を受ける権利を有している。
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イ |
他人の建物を当初から不法に占拠している者が建物について必要費を支出したときは、必要費は有益費と異なり建物の保存に不可欠なものであるから、公平の観点から、建物の占有者は,必要費の償還を受けるまで、当該建物を留置することができる。
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ウ |
留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは留置物の全部についてその権利を行使することができるから、留置権者が留置物の一部を債務者に引き渡したとしても、その行為が留置権の放棄と認められない場合には、留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまで、留置物の残部について留置権を行使することができる。
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エ |
留置権は、債務者の所有する物に限らず、債務者以外の者が所有する物の上にも成立するが、留置権者が債務者の承諾を得ることなく留置物を使用した場合において、留置権者に対して留置権の消滅を請求することができるのは、債務者であって、留置物の所有者ではない。
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オ |
留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって消滅するのが原則であるが、留置権者が債務者の承諾を得て留置物を他人に賃貸した場合や、留置権者がその留置物の占有を奪われた後に占有回収の訴えによってその物の占有を回復した場合は、留置権は消滅しない。
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1.ア イ 2.ア ウ 3.イ エ 4.ウ オ 5.エ オ
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[検討]
法務省のHPによれば、本問の正解は
“4”となっています。
重要な肢から検討しますが、まず、
“肢ア”では、
@留置権者は、目的物を競売することができるか?
A留置権に優先弁済効があるか?
の二点が聞かれています。
この点、留置権者も「形式的競売」をすることができるので、@については正しいことになります。
もっとも、留置権は目的物を留置することを通じて弁済を強制するものにすぎず、優先弁済効はありません。
そのため、Aは誤りとなります。
よって、本肢は
“誤”となります。
このうち、
@は基本的な教科書であるSシリーズUの211頁にも記載がある基本的知識ですし、Aも同じくSシリーズUの207頁にも記載がある基本的知識であるとともに、過去問平成15年第23問肢ウでも聞かれています。
仮に@を知らなくとも、Aによって本肢が“誤”であることがわかるので、本肢は
『押さえなければならない肢』といえます。
次に、
“肢エ”
@債務者以外の者が所有する物についても留置権は成立するか?
A298条3項の消滅請求は、債務者でない物の所有者もすることができるか?が聞かれています。
この点、留置権は、債務者以外の者が所有する物についても成立するので、@は正しいことになります。
もっとも、被担保債権の債務者と目的物の所有者とが異なる場合、298条3項の消滅請求は所有者が行うので、Aは誤りです。
よって、本肢は
“誤”となります。
@は過去問平成11年第24問肢ウで、また、Aも過去問昭和57年第71問肢3でそれぞれ聞かれているので、本肢は
『押さえなければならない肢』といえます。
以上から、
“肢ア”と
“肢エ”が“誤”となるので、消去法により
選択肢4が正解となります。
なお、他の肢も検討すると、
“肢イ”では、
初めから物を不法に占有する者についても留置権を認めることができるか?が聞かれています。
この点、295条2項によれば、
「占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。」と規定されているので、留置権は初めから物を不法に占有する者には認められません。
よって、本肢は“誤”となります。
この肢は、条文そのままなので、
『押さえなければならない肢』といえます。
“肢ウ”では、
留置権者が留置物の一部を債務者に引き渡した場合にも、なお“不可分性”が認められるか?が聞かれています。
この点、留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまで留置権を行使することができます(不可分性・296条)。
そして、留置物の一部を債務者に引き渡す場合、全部を返還する場合とは異なり、留置権は消滅しません(一部の返還が全部の放棄と解釈される場合は別ですが…)。
そのため、留置権者が留置物の一部を債務者に引き渡したとしても、それが、留置権の放棄と認められない限り、留置権者は,債権の全部の弁済を受けるまで、置物の残部について留置権を行使することができます。
最判平成3年7月16日も同様の判断をしています。
よって、本肢は“正”となります。
この肢は、知っているに越したことはありませんが、知らなかったとしても正解を導くには必要ありません。
“肢オ”では、
@「留置権者が留置物を債務者の承諾を得て他人に賃貸した場合」や、
A「留置権者が奪われた留置物の占有を、後に、占有回収の訴えによって回復した場合」に留置権消滅するか?
が聞かれています。
この点、302条本文によれば、留置権者は、原則として、留置物の占有を失った時に留置権を失うことになります。
もっとも、例外として、同条但書の場合、すなわち、「留置権者が留置物を債務者の承諾を得て他人に賃貸した場合」や、「留置物の占有が奪われたが、占有回収の訴えにより占有を回復した場合」には、留置権は消滅しません。
よって、本肢は“正”となります。
@については
条文そのまま、Aについては
基本的な教科書であるSシリーズUの212頁にも記載がある基本的知識ですから、この肢も
『押さえるべき肢』といえます。
[まとめ]
本問は、『押さえなければならない肢』や『押さえるべき肢』が多い問題ですが、最低限押さえなければならないのは、過去問でも出題のある
“肢ア”と
“肢エ”でしょう。
よって、第29問における「関ヶ原」は、
“肢ア”と
“肢エ”といえます。
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