<司法書士科>
         
<司法試験科>
    
←メールソフトが立ち上がります





 第3回目の今週は、第23問について見ていきましょう。


 [問題]

 契約の成立に関する教授の質問に対する次のアからオまでの学生の解答のうち、誤っているものを組み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。

 教授
 顧客甲が貴金属商乙に「メノウのペンダント」を注文し、乙がこれに応じてメノウでペンダントを製作したとします。
 ところが、甲は、サファイアのペンダントを注文するつもりだったのに、メノウとサファイアとが同じものだと誤解していたとします。この場合に契約は成立しますか。

 学生A
 ア 私は、意思表示について内心の意思を重視しますので、その場合には意思表示の合致はなく、契約は不成立になり、後は、錯誤の可能性を検討することになります。

 学生B
 イ 私は、意思表示について表示を重視しますので、契約は成立すると考えます。
   この場合、「メノウのペンダント」についての契約が成立すると考えます。
   錯誤が成り立つ可能性があります。

 教授
 では、今の例で、甲のみならず乙も、メノウとサファイアとが同じものだと誤解していて、サファイアを使うつもりでメノウを使った場合には、契約はどのように解釈すればよいのでしようか。

 学生B
 ウ その場合には、「メノウのペンダント」と表示されていても、「サファイアのペンダント」についての契約が成立すると考えます。この場合、心裡留保となる余地があります。
 学生A
 エ 私も、「サファイアのペンダント」についての契約が成立すると考えます。
   なお、甲、乙ともに、真意と異なる表示をしていますが、虚偽表示となる余地はありません。

 教授
 では、甲がメノウのペンダントを製作してもらおうと思って、乙に「メノウのペンダント」の注文をしたところ、乙はオパールのペンダントを製作したとします。
 甲や乙が住む地方には、メノウといえば、オパールを指すという慣習が仮にあったとして、甲には「オパールのペンダント」を注文するつもりはなかった場合には、どのように考えればよいのでしょうか。

 学生B
 オ 「メノウのペンダント」という表示の点では一致していますが、その地域の慣習を考慮すれば、「オパールのペンダント」としての契約が成立すると考えます。この場合は,錯誤となる余地があります。

 1.ア ウ   2.ア エ   3.イ ウ   4.イ オ   5.エ オ



 [検討]

 法務省のHPによれば、本問の正解は“1”となっています。

 本問は、3つの設例を挙げたうえで、学生A・Bそれぞれの考え方からの帰結を問うとともに、契約の成立に関する基本的な知識を問うものです。

一つ目の設例に関するものが“肢ア”“肢イ”、二つ目の設例に関するものが“肢ウ”“肢エ”、三つ目の設例に関するものが“肢オ”です。

そこで、以下設例ごとに見ていきましょう。

 《設例1》甲が、メノウとサファイアを同じものと誤解していたため、サファイアのペンダントを注文するつもりで、「メノウのペンダント」を注文したところ、乙がメノウでペンダントを製作した場合

 
 
内心 サファイア
メノウ
表示
メノウ
メノウ



 まず、“肢ア”では、

 @設例1につき、学生Aの見解から「契約不成立」となるか?
 A契約が不成立となった場合にも錯誤を検討する必要があるか?が聞かれています。

 学生Aの見解は、「意思表示について内心の意思を重視する」というものですが、甲の内心は“サファイア”であるのに対し、乙の内心は“メノウ”ですから、両者の意思は合致しておらず、甲乙間に契約は成立しません。

 よって、@は正しいといえます。

 もっとも、錯誤の問題は、契約の成立を前提とするので、契約が不成立となった本肢では錯誤を検討する余地はありません。

 よって、Aは誤りとなり、本肢は“誤”となります。

 次に、“肢イ”では、

 @設例1につき、学生Bの見解から「契約成立」となるか?
 A契約が成立した場合、錯誤を検討する必要があるか?が聞かれています。

 学生Bの見解は、「意思表示について表示を重視する」というものですが、甲の表示が“メノウ”であるのに対し、乙の表示も“メノウ”ですから、両者の意思は合致しており、甲乙間に契約が成立します。

 よって、@は正しいといえます。

 また、前述のとおり錯誤の問題は、契約の成立を前提とするので、契約の成立が認められる本肢では、錯誤の検討が必要となります。

 よって、Aも正しく、本肢は“正”となります。


 《設例2》設例1で、甲のみならず乙も、メノウとサファイアとが同じものだと誤解していた場合

  
 
内心 サファイア サファイア
表示
メノウ
メノウ



“肢ウ”では、

 @設例2につき、学生Bの見解からサファイアを目的とする契約が成立するといえるか?
 Aこの場合に心裡留保となる余地があるか?が聞かれています。

 学生Bの見解は、「意思表示について表示を重視する」というものですが、甲の表示が“メノウ”であるのに対し、乙の表示も“メノウ”ですから、甲乙間の契約は“メノウ”について成立します。

 よって、@については誤りといえます。

 また、甲も乙も表示と内心的効果意思に不一致がありますが、両者共にメノウとサファイアとが同じものだと誤解しているので、それぞれが意思の欠缺を知りません。

 よって、甲・乙双方に心裡留保の余地はなく、Aについても誤りといえ、本肢は“誤”となります。

 “肢エ”では、

 @設例2につき、学生Aの見解からサファイアを目的とする契約が成立するといえるか?
 Aこの場合に虚偽表示となる余地があるか? が聞かれています。

 学生Aの見解は、「意思表示について内心の意思を重視する」というものですが、甲の内心が“サファイア”であるのに対し、乙の内心も“サファイア”ですから、甲乙間の契約は“サファイア”について成立します。

 よって、@は正しいといえます。

 次に、Aについてみると、甲・乙共に、意思の欠缺がありますが、これが「虚偽表示」となるためには、当事者間の通謀が必要です(94条1項)。

 しかし、甲と乙との間に通謀は認められないので、両者の意思表示は、「虚偽表示」となる余地はありません。

 よって、Aも正しく、本肢は“正”となります。

 以上から、“肢イ”及び“肢エ”が“正”となるので、この時点で消去法により肢1が正解となります。


 《設例3》は、少しややこしい設例ですが、これを放置しても正解を導くことができます。

 一応《設例3》についても検討しておきましょう。

 《設例3》甲が、メノウのペンダントを製作してもらうつもりで、乙に「メノウのペンダント」と注文したところ、甲や乙が住む地方には、『メノウといえば、オパールを指す』という慣習があったため、乙がオパールのペンダントを製作したが、甲には「オパールのペンダント」を注文するつもりはなかったという場合


   
内心
メノウ
オパール
表示 メノウ(オパール) オパール



 “肢オ”では、

 @設例3につき、学生Bの見解によっても、オパールを目的とする契約が成立するといえるか?
 Aその場合、錯誤となる余地があるか?が聞かれています。

 学生Bの見解は、「意思表示について表示を重視する」というものですから、まず、甲の表示をみますと、この地方では『メノウといえば、オパールを指す』という慣習があったことから、甲のなした「メノウ」との意思表示は、「オパール」との意思表示と解釈することができます。

 他方、乙がオパールのペンダントを製作したということは、乙は、甲の意思表示を「オパールのペンダントの注文」と解釈した上で、これに対して承諾したものと考えられますから、乙の表示も「オパール」であったと考えられます。

 よって、甲乙間にはオパールを目的とする契約が成立すると考えることができ、@は正しいといえます。

 そして、このように解した場合、甲には内心的効果意思と表示の間に不一致があることになり、さらに甲はそのことを認識していないから、甲の意思表示には錯誤があることになります。

 よって、Aも正しいといえ、本肢は“正”となります。

 [まとめ]  以上から、第23問における「関ヶ原」は、“肢イ”“肢エ”といえます。

戻る