第2回目の今週は、第22問について見ていきましょう。
[問題]
AとBは、C社の従業員であった。
AがBの運転するCの業務用自動車に同乗して勤務していたところ、この自動車が、Bのわき見運転が原因で道路わきの電柱に激突し、Aが即死した。
Dは、Aを単独で相続した。
この事故に関する次のアからオまでの記述のうち、誤っているものを組み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。
なお、以下の記述にいう安全配慮義務とは、使用者が労務管理に当たって支配管理する人的及び物的環境から生じうる危険の防止について適切な処置を講ずべき義務をいうものとする。
ア Aの死亡について、DがBに対して不法行為に基づく損害賠償を求める訴えを提起した場合、被用者の不法行為を理由とする使用者の損害賠償責任の性質を代位責任と理解する見解に立っても、これによって、Bの不法行為を理由としてDがCに対して有する損害賠償請求権の消滅時効は中断しない。
イ BがCに運転手として雇用されていた者である場合、 この事故に関して、Bは、Cの負担する安全配慮義務の履行補助者ではない。
ウ Bが自動車の運転において必要とされる注意を怠った事実が認められれば、これによって、Cに安全配慮義務違反があったことが認められる。
エ Aの死亡について、DがCに対して訴えを提起し、安全配慮義務違反を理由にCの損害賠償責任を追及したときには、遅延損害金は、事実審の口頭弁論が終結した日の翌日から起算される。
オ DがCに対して未払の借入金債務を負担していたとき、Dは、この借入金に係るCの債権と、Bの不法行為を理由とするDのCに対する損害賠償請求権とを、対当額で相殺できる。
1.ア イ 2.ア オ 3.イ エ 4.ウ エ 5.ウ オ
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[検討]
法務省のHPによれば、本問の正解は
“4”となっています。
さっそく、
“肢ア”と
“肢オ”から見ていきましょう。
“肢ア”では、@被用者に対する訴え提起によって、使用者に対する損害賠償請求権の消滅時効が中断するか?Aそのことは、使用者の損害賠償責任の性質を代位責任と解する場合にもいえるか?が聞かれています。
まず、@についてですが、本問のような使用者責任が問題となる事例では、使用者は715条1項、被用者は709条によってそれぞれ損害賠償責任を負い、両者は不真正連帯債務と解されています(大判昭12年6月30日)。
そして、不真正連帯債務の場合、ひとりに生じた事由は、債権を満足させる事由を除き、他の者に影響を及ぼさない(相対効)ものとされています(最判昭57年3月4日)。
よって、使用者に対する損害賠償請求権の消滅時効は、被用者に対する訴え提起によって中断するといえます。
「使用者と被用者の債務が不真正連帯債務となる点」については、過去問昭和42年第50問肢2でも聞かれています。
また、「不真正連帯債務の相対効」については、過去問の出題はありませんが、基本的な教科書であるSシリーズVの128頁にも書いてあるくらいの基本的知識です。
次に、Aについて、715条の性質を代位責任と解すると、使用者は被用者に代わって被用者の行為について責任を負うことになりますが、これは、被用者自身が責任を負うことを排除するものではありません。
そして、また、被用者が責任を負い、それと使用者の責任が不真正連帯債務となること(@)とも矛盾しません。
よって、715条の性質を代位責任と理解する見解に立っても、@のように解することができます。
以上から、
“肢ア”は『押さえるべき肢』と言えるでしょう。
“肢オ”では、不法行為による損害賠償請求権を「自働債権」として相殺することができるか?が聞かれています。
これと同じことは、過去問平成3年第27問肢エでも聞かれています。
なので、
“肢オ”も『押さえるべき肢』と言えるでしょう。
では、
“肢イ”と
“肢ウ”はどうでしょう。
“肢イ”ではBがC社の履行補助者か?が、
“肢ウ”ではBが不注意で事故を起こしAを死亡させたことがC社の安全配慮義務違反となるか?が聞かれています。
この点について、「Bが安全に自動車を運転すること」がC社のAに対する安全配慮義務の履行としての意味をもつものであれば、BはC社の履行補助者といえ、また、Bの過失による事故はC社の安全配慮義務違反となります。
この場合、
“肢イ”は誤りとなり、
“肢ウ”は正しいことになります。
反対に、「Bが安全に自動車を運転すること」がC社のAに対する安全配慮義務の履行としての意味をもたないのであれば、BはC社の履行補助者とは言えず、また、Bの過失による事故はC社の安全配慮義務とは関係ないことになります。
この場合、
“肢イ”は正しく、
“肢ウ”は誤りとなります。
このように、
“肢イ”と
“肢ウ”の正誤は、「Bが安全に自動車を運転すること」がC社の安全配慮義務の内容をなすものか否かによって決まります。
そしてこの判断にあたっては、問題文本文中の「なお」以下の部分がポイントになります。
問題文本文中の「なお」以下には、
『安全配慮義務とは、使用者が労務管理に当たって支配管理する人的及び物的環境から生じうる危険の防止について適切な処置を講ずべき義務をいう』とありますが、これは簡単に言ってしまえば、安全配慮義務が
『職場における、労働者の生命・身体に対する危険を取り除く義務』であるということです。
そして、“C社がBに業務用自動車を運転させること”は、「職場における、労働者の生命・身体に対する危険を取り除く」ものとまではいえませんから、「Bが安全に自動車を運転すること」はC社の安全配慮義務の内容をなすものではなく、従って、
“肢イ”は正しく、
“肢ウ”は誤りとなります。
ちなみに、
“肢エ”ですが、ここでは債務不履行に基づく損害賠償請求権がいつから履行遅滞になるか?が聞かれています。
債務不履行に基づく損害賠償請求は“期限の定めない債務”であり、“期限の定めない債務”は請求のときから履行遅滞になります。訴えの提起は裁判上の請求ですから、債務不履行に基づく損害賠償請求権は訴状送達のときから履行遅滞になります。そのため、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権は、訴状送達のときから履行遅滞となります。
同じことは、過去問平成11年第39問肢1でも聞かれています。
[まとめ]
以上のように、本問は
“肢ア”“肢オ”を確実に押さえた上で、Bが事故を引き起こしたことがC社の安全配慮義務違反となるか?の判断がポイントとなります。
なので、第22問における「関ヶ原」は、
“肢イ”と
“肢ウ”といえます。
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