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 第18回の今週は、第38問について見ていきましょう。


 [問題]

 1個の特定物である売買物件を買主に引き渡したが、代金の支払を受けていない動産売主は、@売買契約を解除して、売買物件を取り戻す、A動産売買先取特権を行使して、売買代金債権を優先的に回収する、といった権利を有する。
 また、B所有権留保の約定がある場合には、留保された所有権に基づいて売買物件を取り戻す権利を有する。
 この三つの権利に関する次のアからオまでの記述のうち、@からBまでのすべてに当てはまるものを組み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。

売主が権利の行使をする前に、買主が第三者との間でその売買物件について転売契約を締結し、第三者が引渡しを受けたとき、その第三者が買主の代金の未払について悪意であれば、売主は、売買物件を取り戻し、又は売買物件から優先的な債権回収をすることができる。
売買物件について民法上の留置権を取得した第三者が登場したとき、その第三者は売主に対しその留置権を主張できる。
売主が権利の行使をするに当たって、買主に対する意思表示は必要とされない。
売主が権利の行使をする前に、第三者が過失により売買物件を滅失させたとき、売主は、買主がその第三者に対して有する損害賠償請求権について物上代位権を行使できる。
代金債権の一部が残っていれば、売主はその権利を売買物件の全体について行使できる。

1.ア エ   2.ア オ   3.イ ウ   4.イ オ   5.ウ エ



 [検討]

 法務省のHPによれば、本問の正解は“4”となっています。

 本問の、「動産売買先取特権…」「所有権留保の約定…」というフレーズを見たときに“うわっ”と思ったのは私だけではないでしょう(私だけだったりして…)。

 本問は、「@からBまでのすべてに当てはまるものを組み合わせろ」とのことですので、表を作って、ひとつでも「×」のついた肢から切っていくのがよいでしょう。



 まず、わかりやすい“肢ウ”“肢エ”から見ていきましょう。

 “肢ウ”についてですが、解除の場合、540条1項により、解除権の行使は相手方に対する意思表示によってするものとされているので、売主が解除権を行使するにあたって、買主に対する意思表示が必要になります。

 なので、“肢ウ”は、@解除についていうと“あてはまらない”ということになります。

 これは条文そのままなので『押さえなければならない知識』といえます。

 また、“肢エ”についてですが、@解除は、既に締結された売買契約を解消するものに過ぎず、売買目的物の上に担保権を設定するようなものではないので、売主は物上代位権を行使することは出来ません。

 そのため、“肢エ”は、@解除についていうと“あてはまらない”ということになります。

 これも、当たり前といえば当たり前なので、『押さえなければならない知識』といえます。

   
@解 除
A動産売買先取特権
B所有権留保
肢ウ
×
       
肢エ
×
       


 この時点で、“肢ウ”“肢エ”については、「@からBまでのすべてに当てはまる」とはいえないので、これらを含む選択肢「1」「3」「5」が切れます。

 なお、“肢ウ”“肢エ”のA及びBについてはわからなくても放置しておいて構いません。



 残る選択肢「2」「4」を見ると、“肢オ”が共通しているので、それ以外の肢を検討します。

 このうち“肢ア”の@解除についてみると、解除前の第三者がいる場合であり、この者が、545条1項但書の「第三者」にあたると、売主は売買物件を取り戻すことができないことになります。

 そして、「第三者」にあたるには、その者が善意であると悪意であるとを問いませんが、対抗要件を備える必要があります(大判大10年5月17日)。  本問で、売買目的物たる動産を譲り受けた第三者は、反対給付である代金債務が未履行であることを知っていますが、この点は問題とならず、目的物が動産であること、動産に関する権利譲渡の対抗要件が引渡しであること(178条)から、既に買主から引渡しを受けた譲受人たる第三者は、対抗要件を備えているので、545条1項但書の「第三者」にあたります。

 そのため、売主は、譲受人が悪意であっても、売買物件を取り戻すことができず、“肢ア”は、@解除については“あてはまらない”ということになります。

 「第三者」の要件として“対抗要件が必要であること”、“その者の善意・悪意は問わないこと”は、基本的な教科書であるSシリーズW48頁にも記載がある基本的知識といえますし、特に、後者については、過去問平成10年第35問肢4でも出題されているので、『押さえなければならない知識』といえます。



 以上から、“肢ア”を含む選択肢「2」が切れ、残った選択肢4が正解となります。

 [まとめ]

 結局、本問は、解除に関する知識があれば解ける問題といえ“動産売買先取特権”“所有権留保”について知らなくてもなんとかなります(もちろん知っているに越したことはありませんが)。

 以上から、第38問における「関ヶ原」は、“肢ウ”“肢エ”“肢ア”といえます。

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