第17回の今週は、第37問について見ていきましょう。
[問題]
連帯債務と保証債務に関する教授の質問に対する次のアからオまでの学生の解答のうち、正しいものを組み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。
教授 |
AがBに対して1000万円の金銭債務を負い、CがAの債務を保証しているか、又はBに対してAとともに連帯債務(負担部分は平等)を負っているとします。
この場合において、Cが1000万円をBに支払ったときに、弁済による代位は認められますか。 |
学生ア |
まず、CがAの保証人である場合には、弁済による代位が認められ、Bの有していた債権は当然にCに移転します。
しかし、Cが連帯債務者である場合には、Cの弁済は自己の債務の弁済であって、Aのためにする弁済ではありませんから、Bの有していた債権は当然にはCに移転せず、その移転のためにはBの承諾が必要です。
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教授 |
では、Cが弁済その他の免責行為をしないうちに、Aに対して、あらかじめ求償権を行使することはできますか。
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学生イ |
連帯債務者には事前求償権は認められていませんが、保証人には事前求償権が認められています。
CがAの意思に反して保証人になった場合でない限り、Cには事前求償権が認められます。
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教授 |
ここからは、Bの債権の消滅時効との関係について考えましょう。
BのAに対する債権の消滅時効が完成した後に、BがCに対して権利を行使しようとした場合において、Cは、Bに対して、BのAに対する債権の消滅時効を援用することができますか。
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学生ウ |
はい。連帯債務者も保証人も、いずれも時効の援用権者ですから、Cは、連帯債務者と保証人のどちらであっても、BのAに対する債権の消滅時効を援用することができます。
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教授 |
では、AがBに対して1000万円の債務のうちの600万円を弁済した場合には、時効の中断の効力はCにも及びますか。
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学生エ |
Cが連帯債務者である場合には、時効の中断は絶対的効力事由ですから、Aの債務の承認による時効の中断の効力はCにも及びます。
また、Cが保証人である場合にも、主たる債務者に対して生じた事由は、保証人に対してもその効力を生じますから、時効の中断の効力はCにも及びます。
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教授 |
BがCに対して履行の請求をしたときはどうですか。
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学生オ |
保証人に対して生じた事由は、主たる債務者には及びません。
したがって、Cが保証人である場合には、BがCに対して履行の請求をしても、BのAに対する債権の消滅時効は中断しません。
しかし、連帯債務者に対する履行の請求は絶対的効力事由ですから、Cが連帯債務者である場合には、BのCに対する履行の請求によってBのAに対する債権の消滅時効も中断します。
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1.ア イ 2.ア エ 3.イ ウ 4.ウ オ 5.エ オ
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[検討]
法務省のHPによれば、本問の正解は
“4”となっています。
まず、
“肢オ”では、
“連帯債務者・保証人に対する「請求」による連帯債務・保証債務の時効中断の効力が、主たる債務に影響を及ぼすか?”が聞かれています。
この点、保証債務の場合、保証人に生じた事由は、弁済等の主たる債務者に有利なものを除いて主債務者には及ばないので、Cに対する請求の効果はAに及びません。
よって、本肢前半部分は、“正”となります。
また、連帯債務の場合、ひとりの債務者に生じた事由は、434条〜439条の場合に限り、他の債務者にも影響を及ぼしますから、BのCに対する請求の効果は、Aにも及び(434条)、
AのBに対する債務の消滅時効も中断することになります(147条1号)。
よって、本肢後半部分も“正”となります。前半部分については、過去問昭和42年第36問肢(4)、及び、昭和56年第80問肢(4)でも聞かれており、また、後半部分については、過去問昭和36年第69問肢(1)、及び、昭和60年第8問肢4(裁判上の請求に関する出題)、請求の絶対効に関する昭和42年第36問肢(3)と平成5年第33問肢ロでも出題されています。なので、この肢は
『押さえなければならない肢』といえます。
これにより、選択肢「4」「5」が怪しいということになります。
そして、「4」「5」には、
“肢オ”の他、
“肢ウ”“肢エ”があります。
このうち、
“肢エ”についてみると、
“肢エ”では、
“主たる債務の「承認」による時効中断の効力が、連帯債務・保証債務にも及ぶか?”が聞かれています。
この点、
主たる債務者による一部弁済は、主債務者による債務の承認(147条3号)にあたり、主債務についての時効中断事由となります(大判大8年12月26日)。
そして、連帯債務者の場合、“債務の承認による時効の中断”は、連帯債務において絶対効を生じる事由にあたらないので、原則どおり相対効となり、他の連帯債務者に及びません(440条)。
これに対して、保証人の場合、主たる債務者に生じた時効中断事由は、保証人に対しても効力が及ぶので、主債務者の債務の承認により、保証債務の消滅時効も中断することになります。
そのため、
主たる債務者Aの債務の承認による時効中断の効力は、保証人であるCには及びますが、連帯債務者であるCには及びません。
連帯債務においては、時効中断事由のすべてが絶対的効力事由となるのではなく、
「請求」が絶対効(434条)となる結果、それに伴う時効中断効も絶対的に効力が生じるに過ぎません。
したがって、本肢は、“時効の中断は絶対的効力事由”とする点で“誤”といえます。
連帯債務者の場合については、過去問昭和36年第69問肢(2)、昭和50年第53問肢(2)、昭和60年第8問肢1、平成8年第39問肢1のほか、昭和57年第35問肢3においても前提知識として聞かれています。
また、保証人の場合についても、昭和56年第80問肢(3)、平成9年第36問肢ウ、及び、平成17年第26問肢エで聞かれています。なので、この肢も
『押さえなければならない肢』といえます。
以上から、選択肢「4」が正解となります。
一応、他の肢も検討すると、
“肢ア”では、
“連帯債務者・保証人は、法定代位(500条)の「正当な利益を有する者」といえるか?”が聞かれています。
この点、
連帯債務者も保証人も、主たる債務について弁済をしないと、債権者から強制執行をされる危険があるので「正当な利益を有する者」といえます(連帯債務者につき、大判昭11年6月2日)。
よって、Cが保証人である場合に限らず、連帯債務者の場合にも、Bの有している債権がCの弁済によって当然にCに移転することになり、本肢の後段が“誤”となります。
保証人については、過去問昭和56年第14問肢1で聞かれています。
また、連帯債務者については、過去問での出題はありませんが、基本的な教科書であるSシリーズVの206頁にも記載がある基本的知識ですから、本肢は、
『押さえるべき肢』といえるでしょう。
“肢イ”では、
“連帯債務者・保証人に、事前求償権があるか?”が聞かれています。
この点、連帯債務者の場合、そのような規定はなく事前求償権はありません。
これに対して、
保証人の場合、460条により、主たる債務者の委託を受けた保証人について、同条各号の事由が認められるときに事前求償権が認められます。
そのため、たとえ、主たる債務者Aの意思に反しない場合でも、保証人Cが委託を受けていない以上、Aに対する事前求償権は認められません。
よって、本肢の後段が“誤”となります。
連帯債務者の場合については、条文ないこと、また、保証人については、過去問平成12年第38問肢エ、及び、平成13年第28問肢アで出題されていることから、本肢も、
『押さえるべき肢』といえるでしょう。
“肢ウ”では、
“連帯債務者・保証人が、主たる債務について消滅時効を援用できるか?”が聞かれています。
この点、連帯債務者の場合、
439条により連帯債務者は主たる債務について消滅時効を援用することができます。
また、保証人の場合も、保証債務の付従性から主たる債務について消滅時効を援用することができます(大判大4年7月13日)。
よって、本肢は“正”となります。
連帯債務者の場合については、過去問昭和46年第15問肢(3)で出題されており、保証人の場合については、過去問平成16年第29問肢アが、“保証人が主たる債務の消滅時効を援用できること”を前提としているので、本肢も、
『押さえるべき肢』といえるでしょう。
[まとめ]
本問の肢は、いずれも重要な肢ですので、しっかり押さえておく必要があります。
ただ、その中でも、特に押さえなければならないのは、過去問の出題頻度からしても
“肢エ”と
“肢オ”だといえます。
以上から、第37問における「関ヶ原」は、
“肢エ”と
“肢オ”といえます。
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