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 第16回の今週は、第36問について見ていきましょう。


 [問題]

 AはBとの間で、自分の使っている中古のテレビをBに対して贈与する旨の契約を締結した。
 しかし、履行期を過ぎ、BはAに何度も催告をしたが、Aは「今度必ず渡すから」と言って、実際にはなかなか渡してくれない。
 この事例に関する次のアからオまでの記述のうち、誤っているものを組み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。
そのテレビが気に入っていたBは、どうしてもテレビを手に入れたい。AB間の贈与が書面によらないものであっても、BはAに対してそのテレビの引渡しを請求できる。
Bは、 Aからの贈与など当てにせず、新品のテレビを購入しようと思うようになったが、購入した後、Aから中古のテレビが届くと、不用品として回収してもらわねばならず、かえって費用がかかってしまう。AB間の贈与が書面によらないものである場合、BはAとの贈与を撤回できる。
Bは、 Aからの贈与など当てにせず、新品のテレビを購入しようと思うようになったが、購入した後、 Aから中古のテレビが届くと、不用品として回収してもらわねばならず、かえって費用がかかってしまう。AB間の贈与が書面によるものであっても、BはAの債務不履行を理由にAとの贈与契約を解除できる。
AB間の贈与契約では、契約締結の三日後にテレビの所有権がAからBに移転すると決められていた。この場合、贈与が書面によらないものであっても、期間の経過により所有権の移転という履行が終わってしまうので、引渡し前であってもAは贈与を撤回できなくなる。
BはAからようやくテレビの引渡しを受けたが、Aの説明と異なり、そのテレビは故障していて廃棄せざるをえなかった。Aが贈与契約を締結した時にこの瑕疵を知っていても、負担付贈与でない限り、AはBに対してこの瑕疵について責任を負わない。

1.ア ウ   2.ア オ   3.イ ウ   4.イ エ   5.エ オ



 [検討]

 法務省のHPによれば、本問の正解は“5”となっています。

 本問の肢はいずれも長く、前半と後半とに分かれていますが、前半部分は“行為の動機”であったり、“行為時の状況”であって、設問の中心は後半部分にあります。

 なので、実際のところは、ほとんどが簡単な設問となっています。



 それでは早速、内容を検討していきましょう。

 まず、“肢ア”ですが、ここでは、“書面によらない贈与契約において、贈与者は財産を引き渡す義務を負うか?”が聞かれています。

 この点、贈与契約は諾成契約ですから、書面によらなくても有効に契約が成立します。

 その結果、贈与者は受贈者に対して目的物を引き渡す義務を負います(549条)。

 AB間で贈与契約が締結されている以上、贈与者AはBに対してテレビを引き渡す義務を負うので、BはAに対してそのテレビの引渡しを請求できることになります。

 よって、本肢は“正”となります。これについては、負担付贈与に関する出題ではありますが、過去問平成9年第28問肢アがあります。

 なので、この肢は『押さえなければならない肢』といえるでしょう。



 次に、“肢イ”では、“書面によらない贈与を受贈者が撤回することができるか?”が聞かれています。

 この点、550条は、書面によらない贈与の撤回について「各当事者」が撤回できるものと定めているので、受贈者も書面によらない贈与を撤回することができます。

 よって、受贈者であるBもAとの間の贈与契約を撤回することができ、本肢は“正”となります。

 このことは、過去問昭和60年第2問、及び、平成4年第40問肢アでも聞かれており、『押さえなければならない肢』といえます。



 以上から、“肢ア”“肢イ”が“正”となるので、消去法により選択肢5が正解となります。



 この他の肢について、“肢ウ”では、“本問の事情のもとで債務不履行を根拠に贈与契約を解除できるか?”が聞かれています。

 本肢では、AB間の贈与契約により、Aは、Bに対して財産を与える債務を負っています。

 そして、Aは、履行期が過ぎたにも関わらずテレビを引き渡しておらず、また、そのことについてAも認識しており、帰責性が認められます。

 さらに、贈与契約は、片務契約ですから、双務契約に認められる同時履行の抗弁権(533条本文)がなく、遅滞について違法性が認められます。

 また、Aは、Bの度重なる催告にも関わらず引渡しをしていないので、Bに解除権が認められます(541条)。

 よって、Bは、Aの債務不履行を理由にAとの贈与契約を解除することができ、本肢は“正”となります。

 これは単に、現場でのあてはめさえできればよいという肢です。

 “肢エ”では、“観念的な所有権の移転が「履行の終わった」(550条)にあたるのか?”が聞かれています。

 この点、贈与が書面によらずになされた場合には、贈与意思が明確でないので、撤回が許容されています(550条本文)。

 そのため、贈与の意思が明確となるような外形的行為がなされたときに「履行が終わった」(同条但)といえることになります。

 本肢では、観念的に所有権が移転しただけで“外形的行為”がないので、「履行が終わった」といえず、Aは贈与契約を撤回することができます。

 本肢は“誤”となります。この肢は、550条但の「履行の終わった」の意義を前提に、本肢の場合にどうなるかをあてはめさせる肢といえます。

 そして、「履行の終わった」の意義については、過去問昭和60年第26問肢5、平成4年40問肢オ、平成8年34問肢アの学習を通じてマスターすべきであることから、本肢は、『押さえるべき肢』といえます。



 “肢オ”では、“贈与契約における担保責任の有無”が聞かれています。

 贈与契約は無償契約ですから、担保責任は無いのが原則です(551条1項本文)。

 もっとも、贈与者が瑕疵を承知の上で受贈者に知らせなかったような場合には、同条項但書きによって、贈与者も担保責任を負うものとされています。

 したがって、Aが契約締結時にテレビの故障を知っていた場合には、負担付贈与でなかったとしても、AはBに対して担保責任を負うことになるので、本肢は“誤”となります。

 この肢も、551条という条文それ自体の知識を前提に本肢の場合にどうなるかをあてはめさせる肢といえ、『押さえるべき肢』といえます。



 [まとめ]

 本問の肢は、どれもそれなりに重要ですが、中でも、ほぼ過去問そのままの出題といえる“肢ア”“肢イ”が特に重要といえます。

 以上から、第36問における「関ヶ原」は、“肢ア”“肢イ”といえます。

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