第13回の今週は、第33問について見ていきましょう。
[問題]
AB間で中古車の売買契約が締結され、売主Aから買主Bに引渡しがされたが、その中古車には重大な隠れた瑕疵があった。そこで、Bは、瑕疵を理由に代金の支払を拒んでいる。この場合における次のアからオまでの記述のうち、誤っているものを組み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。
ア |
Bが中古車を使用した後に、瑕疵を理由に契約を解除した場合、Bは,中古車を返還するだけではなく、中古車の使用利益も返還する必要がある。
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イ |
Bが中古車を運転中瑕疵に起因する事故によりガードレールに衝突して中古車が大破した場合、Bの行為による事故であるから、Bは瑕疵を理由に契約を解除することができない。
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ウ |
Bが中古車を運転中、予見不可能な土砂崩れに巻き込まれて中古車が大破した場合、中古車の返還は不可能ではあるが、Bは瑕疵を理由に契約を解除することができる。
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エ |
Bが瑕疵を理由に契約を解除した後に、B宅の隣家から出火してB宅のガレージに燃え移り、中古車も全焼した場合、Bは時価相当額の返還義務を負うことになる。
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オ |
Bが中古車の購入後に、瑕疵があるのを知りながら、瑕疵とは無関係な部分を改良していた場合、Bは、瑕疵を理由に契約を解除した後の中古車の返還に際して、価格の増加が現存していてもAに有益費の償還を求めることができない。
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1.ア イ 2.ア エ 3.イ オ 4.ウ エ 5.ウ オ
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[検討]
法務省のHPによれば、本問の正解は
“3”となっています。
本問は、第31問と同様、過去に全く同じ肢が出題されていない点で、解いていて不安になる問題でしょう。
そこで、わかりやすい肢から検討していきます。
まず
“肢イ”ですが、ここでは
“目的物の返還不能がその物の瑕疵に起因する場合にも解除権は消滅するか?”が聞かれています。
この点、解除権は、解除権者の行為によって目的物を返還できなくなったときに消滅するところ(548条1項)、Bの引き起こした事故によって本肢中古車の返還ができなくなっていることから、Bの解除権も消滅するように見えます。
しかし、そもそもこの事故は中古車の瑕疵に起因しているので、「解除権を有する者の行為…によらないで滅失」(548条2項)したといえ、解除権は消滅しません。
よって、Bは解除することができ、本肢は“誤”となります。
次に、
“肢ウ”ですが、ここでは
“予見できない原因によって目的物の返還が不能になった場合にも解除権は消滅するか?”が聞かれています。
この点、目的物が、解除権者の過失によらず滅失した場合には、解除権は消滅しません(548条2項)。
そして、本肢のように予見不可能な土砂崩れによって中古車の返還が不可能となった場合、解除権者に過失は認められず、本条項により解除権は消滅しません。
よって、本肢は“正”となります。
“肢イ”及び
“肢ウ”は、548条へのあてはめを聞くものですから、条文問題と位置づけることができ、
『押さえなければならない肢』といえるでしょう。
“肢エ”では、
“目的物返還義務が、債務者の帰責事由に因らずに履行不能となった場合に、損害賠償義務に転化するか?”が聞かれています。
この点、解除により発生した中古車の返還債務が、中古車の全焼によって履行不能となっていますが、その原因は、隣家からの出火にあり、返還債務を負うBには、帰責性がありません。
この場合、Bの返還債務は消滅し、損害賠償義務には転化しません。
よって、Bは時価相当額の返還義務は負わず、本肢は“誤”となります。
この知識は、過去問平成10年第34問肢イの正誤を判断する前提ともなっており、
『押さえるべき肢』といえます。
ここで、
“肢ウ”によって選択肢を「1」「2」「3」に絞ります。
その上で、
“肢イ”と
“肢エ”が“誤”ということなので、もし仮に“肢ア”も“誤”だとすると、答えが「1」と「2」の二つになってしまいます。
とすれば、“肢ア”は“正”だということになり、その結果、正解は「3」ということになります。
なお、他の肢も検討すると、
“肢ア”では、
“解除により生じる「原状回復義務」に使用利益の返還が含まれるか?”が聞かれています。
この点、最判昭34年9月22日は「原状回復義務」に、使用利益の返還も含まれるとしており、本肢は“正”となります。
この肢は、過去問での出題はなく、Sシリーズにも書かれていませんが、大抵の受験参考書に記述があるので、押さえておくに越したことはないでしょう(ちなみに、この肢を知っていれば、
“肢ウ”と
“肢ア”で消去法により正解を導くことができます。)。
“肢オ”では、
“目的物に瑕疵があることを知りながら有益費を支出した者に有益費償還請求権が認められるか?”が聞かれています。
この点、196条2項は、占有権限のない占有者に対し、その者が支出した有益費について、価格の増加が現存することを条件に償還請求を認めています。
本肢で、Bは、解除によって遡及的に所有者でなくなるため、費用支出の時点で中古車を占有する権限を有しておらず、「占有者」にあたり、また、改良により本肢中古車の価値が増加したと考えられるため、それに要した費用は「有益費」にあたります。
なので、占有物たる中古車の返還の際に価格の増加が現存していれば、Bは支出した費用について有益費の償還を請求することができます。
以上は、Bが支出時に“占有物である中古車に瑕疵があること”を知っていたとしても異なりません。
よって、本肢は“誤”となります。
[まとめ]
以上から、第33問における「関ヶ原」は、
“肢イ”と
“肢ウ”と
“肢エ”といえます。
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