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 第12回の今週は、第32問について見ていきましょう。


 [問題]

 売買契約における債務の不履行に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものを組み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。

コンピュータの売買契約で,当事者双方の債務の履行期として約定されていた日に履行場所で巨大地震が発生し,買主も売主も自己の債務の履行を提供できなかった。この場合,売主は,買主に対し,代金債務の履行遅滞を理由として,履行期後の遅延利息を請求できない。
テレビの売買契約で,売主が引渡義務の履行を遅滞した場合を想定して損害賠償額の予定が合意されていた。この場合において,売主が引渡義務の履行を遅滞したとき,買主は,自己に損害が発生したことを証明しなければ,売主に対して,予定賠償額を請求できない。
A社製の同じ型番の冷蔵庫20台の売買契約が,履行場所を売主の住所地として締結された。買主に引き渡すべき20台が特定された後,買主への引渡しがされる前に,巨大地震により,この20台の冷蔵庫が破壊されたが,売主は同じ型番の冷蔵庫20台を別の場所に所有していた。この場合,買主は,売主に対して,冷蔵庫20台分の価値相当額の賠償を請求できる。
B画伯作の絵画(甲)の売買契約で,代金支払時に所有権が移転する旨の合意がされていたところ,契約が締結された後に,第三者が甲を不注意で焼失させた。この場合において,買主が既に代金を売主に支払っていたとき,買主は,売主に対して,売主がこの第三者に対して有する甲の価値相当額の損害賠償請求権を,甲の代償として譲渡するよう請求できる。
江戸時代より伝わる掛け軸(乙)の売買契約で,履行期に売主が乙を履行場所に持参したが,買主が代金を持参しなかったため,売主は乙を持ち帰った。その後に,売主宅に落雷があり,乙が焼失した。この場合,買主は,売主に対して代金と遅延利息に相当する額を弁済として提供しても,乙の価値相当額の賠償を請求できない。

 1.ア エ   2.ア オ   3.イ ウ   4.イ オ   5.ウ エ



 [検討]

 法務省のHPによれば、本問の正解は“2”となっています。


 “肢ア”では、“金銭債務である「代金債務」が不可抗力で遅滞となった場合に遅延賠償の請求が可能か?”が聞かれています。

 履行遅滞の場合、遅延賠償を請求するには、“履行期の徒過”のほかに、@債務不履行につき債務者に帰責性があること、A遅滞が違法であることが必要です。

 @について、金銭債務の場合、419条3項により不可抗力であっても遅滞の責任を負うものとされており、帰責性は必要ではありません。

 買主の代金債務も金銭債務ですから、巨大地震のような不可抗力の場合でも遅滞の責任を負う可能性があります。

 次に、Aについてみると、本肢の代金債務は、双務契約である売買契約から生じており、同時履行の抗弁権(533条)が付着しているので、その遅滞は違法ではありません。

 よって、売主は、買主に対して履行期後の遅延利息を請求できないこととなり、本肢は“正”となります。

 @については、条文であるばかりか過去問昭和46年第55問でも聞かれ、また、Aについては、過去問平成6年第37問肢1及び平成11年第39問肢2で同じことが聞かれています。

 なので、本肢は、『押さえなければならない肢』といえます。



 “肢オ”では、“受領遅滞中に目的物が滅失した場合における債権者による填補賠償の請求の可否”が聞かれています。

 この点、買主の請求が認められるには、売主が債務不履行責任を負う必要がありますが、本肢では、目的物である掛け軸(乙)が滅失しているので、これについて帰責性があれば、売主は債務不履行責任を負います。

 そして、売主が履行期に乙を履行場所に持参したことで“弁済の提供”が認められ、また、買主が代金を持参しなかったことで“受領の拒絶”が認められるので、受領遅滞(413条)が成立し、目的物滅失につき故意又は重過失あるときに帰責性が認められることになります。

 この点、本肢では、“落雷によって乙が焼失”しているので“故意又は重過失”は認められず、売主は債務不履行責任を負いません。

 よって、買主は、価値相当額の賠償を請求できず、本肢は“正”となります。

 受領遅滞の成立で注意義務が軽減される点については、過去問平成8年第22問肢ウ、昭和50年第13問肢(4)、平成10年第34問肢オなど頻出ですから、『押さえなければならない肢』といえるでしょう。


 以上から、“肢ア”“肢オ”が“正”となるので、積極法により選択肢2が正解となります。



 なお、他の肢も検討すると、“肢イ”では、“損害賠償の予定の効果”について聞かれています。

 この点、「賠償額の予定」がなされた場合、債権者は、債務不履行の事実さえ証明すれば、損害の発生や損害額を証明しなくても予定賠償額を請求できます(大判大11年7月26日)。

 よって、買主は、自己に損害が発生したことを証明しなくても、予定賠償額を請求でき、本肢は“誤”となります。

 この肢の場合、過去問に出題はなく、Sシリーズにもはっきりとは書いていません。

 ただ、@損害賠償の範囲・賠償額に関する紛争を回避するという「損害賠償額の予定」の趣旨からすれば、当然といえること、A大抵の受験参考書には書いてあるということからすれば、押さえておくに越したことはないでしょう。



 “肢ウ”では、“目的物が、特定後引渡前に不可抗力で滅失した場合に債権者は填補賠償を請求できるか?”が聞かれています。

 買主のこのような請求が認められるには、売主が債務不履行責任を負う必要がありますが、本肢では、『引き渡すべき20台が特定され』、かつ、『その20台の冷蔵庫が破壊され』売主の債務につき履行が不能となっていることから、売主が債務不履行責任を負うには、“帰責性”が必要です。

 この点、冷蔵庫の滅失は、『巨大地震』という不可抗力によるものなので、“帰責性”は認められず、売主は債務不履行責任を負いません。

 このことは、売主が同じ型番の冷蔵庫20台を別の場所に所有していたとしても変わりません。

 よって、買主は、売主に対して冷蔵庫20台分の価値相当額の賠償を請求できず、本肢は“誤”となります。

 この肢は、試験当日に現場で、肢に書かれた事情を検討して売主の帰責性を判断させるものにすぎず、『押さえなければならない肢』といえるでしょう。



 “肢エ”では、“絵画(甲)を不注意で焼失させた第三者に対して損害賠償請求権を有するのは誰か?”が聞かれています。

 この点、損害賠償請求権の根拠となるのは“甲の所有権”ですが、本肢の契約においては、目的物甲の所有権移転時期につき『代金支払時に移転する』旨の特約があり、しかも、買主が既に代金を売主に支払っていたのであるから、“甲の所有権”は買主に移転したといえます。

 そのため、第三者に対して損害賠償請求権を有するのは買主ということになります。

 よって、売主が第三者に対して損害賠償請求権を有することを前提とする本肢は“誤”となります。

 この肢は、試験当日に現場で、肢に書かれた事情を検討して所有権の帰属を判断させるものにすぎず、『押さえなければならない肢』といえるでしょう。



 [まとめ]

 本問の場合、いずれの肢も重要なのですが、“肢ア”“肢オ”については、過去問でも出題されていることから特に重要といえます。

 以上から、第32問における「関ヶ原」は、“肢ア”“肢オ”といえます。


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