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 第11回の今週は、第31問について見ていきましょう。


 [問題]

 債権譲渡に関する次のアからオまでの記述のうち、誤っているものを組み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。

AがBに対して有する甲債権をCに譲渡する旨の債権譲渡予約がAC間で締結され,その中で,Cが予約完結権を持つことが合意された。その後,Cからの予約完結の意思表示がされる前に,Bは,Aに対し,AからCへの甲債権の譲渡を承諾した。この場合において,予約完結後にCが甲債権の履行請求をしたとき,Bは,これに応じなければならない。
AがBに対して有する甲債権をCに譲渡する旨の契約がAC間で締結され,その後,さらに,甲債権をCがDに対して譲渡する旨の契約がCD間で締結された。そして,Aは,Dからの要請を受けて,Cの同意を得た上で,Bに対し,甲債権がAからDに譲渡された旨の通知をした。この場合,Bは,Dからの甲債権の履行請求に応じなければならない。
AがBに対して有する甲債権をCに譲渡する旨の契約がAC間で締結され,Aは,Bに対してこの旨の譲渡通知をした。その後,Bは,AC間の譲渡が仮装譲渡であった事実を知ったが,このことをCに知らせないでいた。この場合,Bは,Cからの甲債権の履行請求に応じなければならない。
AがBに対して有する甲債権には,AB間で譲渡禁止特約が付けられていた。Aは,この特約を知っているCに対して甲債権を譲渡し,Bに対してこの旨の譲渡通知をした。その後に,AとBが譲渡禁止特約を合意解除し,合意解除の効果を甲債権の発生時にまでさかのぼらせることにした。この場合,Bは,Cからの履行請求に応じなければならない。
AがBに対して有する甲債権をCに譲渡する旨の契約がAC間で締結されたが,AはBに対して譲渡通知をせず,Bからの承諾もない。Aには,現在,資力がない。この場合,Cは,Aに代位して,Bに対し,甲債権の譲渡を承諾するよう請求できる。

 1.ア イ   2.ア ウ   3.イ エ   4.ウ オ   5.エ オ



 [検討]

 法務省のHPによれば、本問の正解は“4”となっています。

 本問は、過去に全く同じ肢が出題されていない点で、解いていて不安になる問題でしょう。

 そこで、わかりやすい肢から検討していきます。



 “肢ウ”についてみると、CがBに対し甲債権の履行を請求できるのは、
 @AC間債権譲渡契約が有効であり、かつ、A債務者対抗要件(467条1項)を備えている場合ですが、本肢においては、AC間債権譲渡契約が、仮装譲渡により“無効”となるため(94条1項)、@を欠くことになります。

 よって、CはBに対し甲債権の履行を請求できず、本肢は“誤”となります。

 これは、単純に@A要件の存否を“肢ウ”の事例について検討させるもので、『押さえなければならない肢』といえます。



 “肢オ” についてみると、債権者が債権者代位権により債務者債権を行使するには、“被保全債権の存在”や“保全の必要性(無資力要件)”の他、“代位の対象となる債権の存在”が必要ですが、債権譲渡における譲渡人は『債務者に対してその承認を要求する権利』を有しないため、“代位の対象となる債権の存在”を欠き、譲受人Cは譲渡人Aに代位して債務者Bに対して、甲債権の譲渡につき承諾するよう請求することはできません。

 よって、本肢は“誤”となります。

 これも、債権者代位権行使のための要件の有無を検討させるものですから、『押さえなければならない肢』といえます。

 ちなみに、本肢は、過去問でも頻出の「譲受人による“通知”の代位」の話とは違うので注意してください。



 以上から、“肢ウ”と“肢オ”が“誤”となるので、積極法により選択肢4が正解となります。



 なお、他の肢も検討すると、“肢ア”では、
 譲受人による予約完結の意思表示前に、債務者が甲債権の譲渡を承諾した場合、有効な承諾といえるか?が聞かれています。

 この点、予約完結権行使によって本契約が成立するので、予約完結の意思表示より前になされた“承諾”は事前の承諾ということになります。

 そして、事前の承諾については、譲渡債権と譲受人とが特定している場合であれば有効な承諾といえます(最判昭28年5月29日)。

 とすると、本肢では、Cの予約完結権行使によって債権譲渡契約が成立するとともに、譲渡債権・譲受人ともに特定しているので、Bのした“承諾”も有効です。

 よって、BはCからの請求に応じなければならず、本肢は“正”となります。  この肢は、@『予約完結権行使によって本契約が成立する』というのは、基本的な教科書であるSシリーズWの64頁にも記載がある基本的知識であるということ、A“事前の承諾”の有効性については、過去問昭和57年第26問肢3、平成2年第29問肢5でも聞かれていることからすれば、『押さえなければならない肢』といえます。



 “肢イ”では、甲債権がAからC、CからDへと順次譲渡された場合において、Dからの要請で、Aが、Cの同意を得て行った「甲債権がAからDに譲渡された」旨の通知が、債権譲渡の対抗要件として有効か?が聞かれています。

 この点、不動産の登記においては、中間者の同意があれば、中間省略登記も有効とされており(大判大5年9月12日)、この話は、債権譲渡の場合にも同様にあてはまると考えられます。

 よって、Aの通知は有効となり、Bは、Dからの請求に応じなければならず、本肢は“正”となります。

 この肢は、「“不動産”が“債権”に変わっただけで、登場人物や利益状況はほぼ共通するので、債権譲渡にも“不動産の中間省略登記”の話が妥当するだろうなぁ」と考えて、どちらかと言えば“正”として先に行くべき肢でしょう。

 ちなみに、中間省略登記については、過去問昭和53年第8問肢3で出題があります。



 “肢エ”では、
 @譲渡禁止特約に違反してなされた債権譲渡の効力と、Aその後なされた譲渡禁止特約の合意解除が@にどのような影響を及ぼすか?が聞かれています。

 @について、譲渡禁止特約には物権的効力があり、これに反する債権譲渡は無効になります。

 そして、これは「善意の第三者」には対抗できないとされており(466条2項)、悪意者には、なお、対抗できます。

 そのため、譲渡禁止特約につき悪意の“C”は、甲債権を取得しないことになります。

 では次に、Aについてはどうでしょう?この点、合意解除は“契約を解除する旨の契約”ですから、その効果は、合意内容によって決まります。

 そのため、合意をもって「遡及効」を定めたときは、遡及効が生じることとなります。

 もっとも、当事者間の契約によって第三者に不利益な効果を及ぼすことはできないので、545条3項を類推して、当事者以外の第三者には遡及効は及びません。

 ここでCは、遡及効により不利益を受ける者ではないので、合意解除の遡及効はCにも及ぶことになります。

 その結果、AC間債権譲渡は遡って有効となり、また、譲渡人Aによる“通知”も遡って有効となりますから、Bは、Cからの請求に応じなければならないことになります。

 よって、本肢は“正”となります。

 Aの合意解除に関して、SシリーズWの50頁に若干の記述があるだけなので、本肢は「こんな感じかなぁ」程度に解れば良い肢でしょう。

 ちなみに、“譲渡禁止特約の合意解除”については、過去問平成14年第37問肢イにも出てきますが、そこでは、「設問の命題と矛盾するか?」という聞かれ方をしているので、出題されたうちには入らないでしょう。

 [まとめ]

以上から、第31問における「関ヶ原」は、“肢ウ”“肢オ”といえます。

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