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 第10回の今週は、第30問について見ていきましょう。


 [問題]

 外観を信頼した者の保護を趣旨とする民法の諸規定に関する判例の見解について、教授と学生が会話をしている。次のアからオまでの学生の解答のうち、正しいものを組み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。

教授  実体的権利関係と異なる不動産登記について、虚偽表示に関する民法第94条第2項の類推適用を肯定する場合の第三者の主観的要件として、判例は何を要求していますか。
学生ア  登記のとおりの権利の取得があったと第三者が信じたこと、すなわち、民法の条文のとおり善意であれば足りる、としています。
教授  権利者本人の帰責性についてはどうですか。
学生イ  権利者本人が虚偽の登記を作出することに関与したり、虚偽の登記の存在を知りながら放置したりした場合のように、権利者本人に帰責性が存在することを要求するのが判例の見解です。
教授  それでは、即時取得に関する民法第192条が適用される場合の取得者の主観的要件は何ですか。
学生ウ  民法第192条によれば取得者の善意かつ無過失、すなわち、前主が無権利者でないと信じたこと及びそれについて過失がないことが必要です。この場合、善意のみならず、判例によれば無過失も推定されるので、取得者は自己の無過失を立証しなくてよいとされています。
教授  次に、民法第110条の表見代理が成立するための要件として、代理人の基本代理権が必要ですが、その外に本人の過失は必要ですか。
学生エ  基本代理権を授与しただけでは本人の帰責性を肯定できないので、判例は、表見代理成立の要件として、本人に過失のあることが必要だとしています。
教授  では、民法第478条は弁済者が「善意であり、かつ、過失がなかったとき」と規定していますが、弁済受領者が債権者の代理人と詐称した場合に債権の準占有者に対する弁済が認められるためには、判例の見解ではどのような要件が必要ですか。
学生オ  弁済受領者が債権者の代理人と詐称した場合について、判例は、弁済受領者に弁済を受領する権限があると弁済者が過失なく信じたことに加えて、弁済受領者に基本代理権が存在することを要求しています。
1.ア エ   2.ア オ   3.イ ウ   4.イ エ   5.ウ オ



 [検討]

 法務省のHPによれば、本問の正解は“3”となっています。



 重要な肢から検討しますが、まず、“肢オ”は、
 “詐称代理人に対する弁済に478条の適用があるか?”という点に関する判例の見解を問うものです。

 この点、判例は、債権者の代理人と称して債権を行使する者も、債権の準占有者にあたる旨判示しており(最判昭37年8月21日)、これによれば、弁済者が、「弁済受領者に受領権限あり」と過失なく信じたことで足りることになります。

 よって、本肢は“誤”となります。これは、過去問昭和60年第20問肢5でも聞かれており、『押さえなければならない肢』といえます。


 次に、“肢エ”は、
 “民法第110条の表見代理の成立要件として本人の過失は必要か?”という点に関する判例の見解を問うものです。

 この点、判例は、「民法110条による本人の責任は本人に過失あることを要件とするものではない」としているので(最判昭34年2月5日)、本肢は“誤”となります。

 表見代理という重要な制度の要件に関するものであること、判例百選(第5版補正版)にも載っている重要判例でもあることから、過去問の出題はありませんが、『押さえるべき肢』といえるでしょう。


 以上から、“肢オ”“肢エ”が“誤”となるので、消去法により選択肢3が正解となります。



 なお、他の肢も検討すると、“肢ア”は、民法第94条2項を類推適用するための「第三者」の主観的要件に関する判例の見解を問うものです。

 この点、判例は善意であれば足りるとしており(最判昭41年3月18日)、本肢は“正”となります。


 “肢イ”は、
 “民法第94条2項を類推適用するための要件として本人の帰責性を要するか?”という点に関する判例の見解を問うものです。

  この点、虚偽の外観を本人が作出した事案については最判昭45年1月24日が、また、虚偽の外観が他人によって作出された事案については最判昭45年9月22日がそれぞれ、本人の帰責性を要求しています。

 よって、本肢は“正”となります。  これら“肢ア”“肢イ”については、Sシリーズにもはっきりとは書いてありません。

 ただ、94条2項の類推適用は不動産取引の安全を図るための重要な“技”ですから、この機会に押さえておいた方が良いでしょう。


 “肢ウ”は、
 “民法192条の要件である「過失がないとき」が推定されるか?” という点に関する判例の見解を問うものです。

 この点、判例は「占有者は、民法188条により、占有物の上に行使する権利を適法に有するものと推定されるので、占有者からの譲受人たる占有取得者には過失がないものと推定され、占有取得者は自己に過失のないことを立証する必要はない」としているので(最判昭41年6月9日)、本肢は“正”となります。

 これは、基本的な教科書であるSシリーズUの115頁にも記載がある基本的知識ですから、、『押さえるべき肢』といえるでしょう。



 [まとめ]

 本問は、「判例は」とか「判例によれば」としており、判例の見解を問う問題ですから、知らなければどうにもならない性質の問題です。

 ただ、以上に述べたように、“肢オ”は過去問でも問われており、また、“肢エ”についても、仮に上記判例を知らなかったとしても、
 @110条の条文には「本人の過失」が規定されていないこと、
 Aもしそのような判例があれば、どの教科書にも要件の一つとして必ず触れられているはずであるにも関わらず、そのような扱いになっていないことから、

 “民法第110条の表見代理の成立要件として本人の過失は不要”と判断できるはずですから正解を導くことができる問題といえます。

 よって、第30問における「関ヶ原」は、“肢オ”“肢エ”といえます。

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