第1回目の今週は、第21問について見ていきましょう。
[問題]
和解に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものを組み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。
ア 当事者間で、賭博によって生じたか否かについて争いのある債務について、その債務が適法に成立したものと認めるとともに債権額を減じた金額を支払う旨の和解契約を締結した。
この場合、後に当該債務が賭博によって生じたことが判明したときは、和解契約は無効であってこれに基づく支払を求めることはできない。
イ 交通事故の損害賠償に関して、加害者が一定額を支払うと約し、被害者がその余の請求を放棄する旨の和解契約が締結された。この場合、和解契約時に予想できなかった後遺症が生じても、被害者は加害者に対してその後遺症についての損害の賠償を請求することはできない。
ウ BのCに対する100万円の債権をAがBから譲り受けたとしてCに対して請求したところ、Cはその債権は弁済により消滅したとして争ったが、AC間において50万円の債権があるとの和解契約が締結された。
その後、Cが100万円全額を支払ったとの確証が得られたとしても、和解契約が錯誤により無効であると主張することはできないが、AB間の債権譲渡が無効であることが判明した場合には、和解契約においてはAB間の債権譲渡の有効性についての争いはなかったため、Cは錯誤による無効を主張できる。
エ 金銭債務の額に関して争いがあったところ、債務者が絵を持参して有名画家が描いたものとうそを言ったので、これを信じた債権者は、その絵を代物弁済として受領する旨の和解契約を債務者と締結し、その場でその絵が債権者に引き渡された。
この場合、その絵が偽物で無価値であると債権者が後に気付いたときでも、債権者は詐欺を理由に和解の意思表示の取消しを主張することはできない。
オ 不法行為に基づく損害賠償として一定の金額を支払う旨の和解契約が締結された場合、当該債権は和解契約により生じたものであり、不法行為に基づく損害賠償債権として3年の時効により消滅するものではない。
1.ア イ 2.ア ウ 3.ウ エ 4.イ オ 5.エ オ
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[検討]
さて、法務省のHPによれば、本問の正解は“2”ですから、“ア”と“ウ”は正しいことになります。
“肢ア”は、和解契約の対象が、「賭博によって生じた債務の存否」という公序良俗に反する事項を対象とする和解契約が無効となるか?を問うものですが、同じことは、過去問平成11年第23問の肢オでも聞かれています。
また、
“肢ウ”ですが、ここでは前半部分では、和解契約締結に際し、争いの対象となった事項について錯誤の主張はできるか?ということを、後半部分では、争いの対象とならなかった事項については錯誤の主張ができるか?ということをそれぞれ聞いています。前半部分については過去問平成11年第23問の肢イで、また、後半部分については過去問平成11年第23問の肢ウで同じことが聞かれています。
過去問が択一民法の対策の王道であることからすると、本問の
“肢ア”“肢ウ”が『押さえるべき肢』といえるでしょう。
なお、他の肢にも言及すると、
“肢イ”は和解の確定効との関係が問題となります。
和解には確定効があり、当事者は合意内容に拘束されます。
とすると、肢イのような場合、被害者は後遺症について損害賠償請求できないようにも思えます。
しかし、最判昭和43年3月15日は、損害賠償請求権放棄の意思は示談当時に予想できたものにのみ及ぶ旨判示して、被害者が示談当時予想できなかった後遺症について損害賠償を請求することを認めています。この判例は判例百選(第5版補正版)にも載っている重要判例ですので、知っているに越したことはないですが、本問の正解を導くにあたっては不要です。
“肢エ”についてみると、一方当事者が、和解契約の締結に際して相手方に対して詐欺行為を行っています。和解契約も法律行為ですから、相手方の詐欺行為により意思表示がなされている以上、民法96条1項によりその和解契約は取消すことができる契約となります。
この肢は、特に知識というよりは、単なるあてはめと言ってよいでしょう。試験当日現場で考えるべき肢といえます。
“肢オ”については、判例があります(大判昭和7年9月30日)。しかし、この肢については、過去問での出題がなく、また、どの教科書にも書いてあるというものではないので、知らなくてもよいものと考えます。
[まとめ]
以上から、第21問における「関ヶ原」は、
“肢ア”と
“肢ウ”といえます。
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