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第9回 〜過去問(4)〜



 今週は、民法平成5年第8問の問題及び解説です。



 [問題]

 甲所有の高価な壷の乙に対する売却に関する法律関係についての次の記述中、正しいものはどれか。

 甲は乙の詐欺により壷を売却したが、その数日後に詐欺を理由に売買契約を取り消した。その後6年が経過した場合でも、甲は乙に対して壷の返還を請求することができる。
 甲は未成年者であるが、親権者丙の同意を得ないで乙に壷を売却した場合には、甲は成年者となる前は、丙の同意を得たときでも、売買契約を追認することはできない。
 甲は成年被後見人であるが、乙に壷を売却した。甲は、成年後見人丙の同意を得ていたから、売買契約を取り消すことができない。
 甲は、未成年者であるが、親権者丙の同意を得ないで乙に壷を売却した。その後、丙がその売買契約を追認したときは、当該売買契約は追認の時から有効となる。
 甲は、被保佐人であるが、保佐人丙の同意を得ないで、乙に壷を売却した。甲は丙の同意がなければ、自ら売買契約を取り消すことはできない。





検討


 肢1について


 甲が乙に対して壷の返還を請求することができるか否かは、甲が乙に対して壷の返還請求する権利があることが必要である。

 この点、甲は乙の詐欺を理由に、甲乙間の壷の売却を取消している。

 この取消は民法96条1項に基づく取消として有効になされている。

 したがって、甲乙間の壷の売買契約は民法121条によって「初より無効なりしものと看做す」こととなり、甲から乙への壷の所有権移転はなかったことになる。

 その結果、甲はなお壷の所有権を有するので、壷の所有権に基づく壷の返還請求を乙に対してすることが可能となる。

 また本件では、取消権行使のときから6年後に、返還請求をすることができるか否かが問題となっている。

 この点、所有権は消滅時効にかからない権利と解されているので、6年後においてもなお甲は壷の所有権を有する。

 したがって、甲は乙に対して壷の所有権に基づく壷の返還請求をすることができる。

 よって、返還請求ができるとする1の肢は正しい。

 なお、民法126条は「取消権は追認を為すことを得る時より五年間之を行はざるときは時効に因りて消滅す。行為の時より二十年を経過したるとき亦同じ。」と規定する。

 したがって、本件でも6年の経過という点で、民法126条が問題となると一応考えられる。

 しかし、民法126条は「取消権は・・・・五年間之を行はざるときは時効に因りて消滅す」とあるので、消滅する対象となる権利はやはり取消権であろう。

 本件では、取消権の行使自体は「その数日後」とあるので、この民法126条は問題とならないと考える。

 司法書士試験という実務家登用試験としては、条文に忠実な解釈を取ることが先決であり、条文で解決できない場合に、判例の見解、そして学説の見解を使って問題を解くという姿勢をもつことが大切と考える。

 よって、条文に忠実な解釈(文理解釈)を展開し、解説としては民法126条の問題はなお書きで補説として書くに留めた。


 肢2について


 2の肢では、甲が売買契約を追認することができるか否かが問題となっている。

 民法124条1項は「追認は取消の原因たる情況の止みたる後之を為すに非ざれば其効なし。」と規定する。

 そして本件で甲は、親権者丙の同意を得ているので、民法124条1項の「取消の原因たる情況の止みたる」といえる。

 したがって、民法124条1項により、甲が親権者丙の同意をえたときには、甲は未成年者であっても追認をすることができる。

 よって、追認することができないとする2の肢は誤りである。


   肢3について


 3の肢では、甲による売買契約の取り消しができるのか否かが問題となっている。

 成年被後見人の取消が認められるためには、取消権が「発生」していることが必要である。

 取消権が「発生」していれば取消をすることが認められる。

 そこで、取消権が「発生」しているのかを検討すると、民法9条は「成年被後見人の法律行為は之を取消すことを得。但日用品の購入其他日常生活に関する行為に付ては此限に在らず。」と規定する。

 したがって、成年被後見人甲が、乙に壷を売却するという「法律行為」については、取消権が「発生」していることになる。

 よって、成年被後見人甲は、この売買契約を取り消すことができるので、3は誤りとなる。

 なお、3の肢では、成年後見人丙の同意を得ていたとある。

 しかし、民法9条は成年後見人の同意の有無を問題としていないので、たとえ成年後見人の同意を得ていた法律行為であっても取消権は「発生」し、取り消すことができる。

 この点、未成年者取消については、法定代理人の同意を得ていない法律行為のみ取消の対象とされていることと混同しないようにすべきでしょう。

 未成年者取消について定めた民法4条2項及び、民法4条1項の規定と民法9条の規定を比較しておいてください。


 肢4について


 4の肢は、「当該売買契約は追認の時から有効となる。」とする。

 しかし民法122条は「取消し得べき行為は第百二十条に掲げたる者が之を追認したるときは初より有効なりしものと看做す。但第三者の権利を害することを得ず。」と規定する。

 よって、「追認の時」からではなく、「初より」すなわち本件では壷の売却をした時から、有効なものとして扱われることになる。

 したがって、4は「追認の時から有効」とする点で誤りである。 


 肢5について


 5の肢は、保佐人の同意を得ないと、被保佐人は自ら取消をすることができないとする。

 この点、取消については民法120条1項が「能力の制限に因りて取消し得べき行為は制限能力者又は其代理人、承継人若くは同意を為すことを得る者に限り之を取消すことを得」と規定する。

 よって、「制限能力者」である被保佐人は、取消をすることができる。

 したがって、保佐人の同意を要することなく、取り消すことができるので、5は誤りである。

 なお、被保佐人が追認をする場合には、民法124条1項により「取消の原因たる情況が止みたる」ことが必要であるから、保佐人の同意がないとできない。

 取消権を行使する場合と、追認権を行使する場合とで要件が異なることを意識することが必要とされる。



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