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第10回 〜過去問(5)〜



 今週は、民法平成6年第7問の問題及び解説です。



 [問題]

 未成年者Aは、単独の法定代理人である母親Bの所有する宝石を、Bに無断で自己の物としてCに売却し、引き渡した上、代金50万円のうち30万円を受け取り、そのうち10万円を遊興費として消費してしまった。
 他方、Cは、Aに対し、残代金を支払わない。
 この場合における法律関係に関する次の記述中、正しいものはいくつあるか。

 Aが未成年者であることを理由にA・C間の売買を取り消したとしても、Cが、Aを宝石の所有者であると信じ、かつ、そう信じるについて過失がなかったときは、Aは、Cに対し、宝石の返還を請求することはできない。
 Bは、A・C間の売買が取り消されない限り、Cに対し、所有権に基づき宝石の返還を請求することはできない。
 Aが、未成年者であることを理由にA・C間の売買を取り消した場合には、Aは、Cに対し、20万円を返還すれば足りる。
 Aは、成年に達した後は、未成年者であったことを理由にA・C間の売買を取り消すことはできない。
 Aが、Bの同意を得て、Cに対して代金残額20万円の履行請求をした場合には、Aは、未成年者であることを理由にA・C間の売買を取り消すことはできない。

1  1個   2  2個   3  3個   4  4個   5  5個



検討


 肢アについて


 まず、 民法120条は 「行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。」 と規定する。

 したがって、未成年者という制限能力者であるAは、法定代理人Bの同意を得ずになした売買について 民法4条1項違反を理由に 民法4条2項によって発生した取消権を民法120条により行使できる。

 その結果、AC間の売買契約は、民法121条(取消の効果の規定)により、初めから無効となる。

 よって、AはCに対し、不当利得返還請求(民法703条)に基づいて、宝石の返還を請求できる。

 これに対し、Cは、「Aが宝石の所有者であると信じ、かつそう信じるについて過失 がなかった」ことを理由に、宝石の所有権を即時取得(民法192条)の主張をすることになる。

 しかし、民法192条は、有効な取引行為の存在を要件としているので、未成年者取消の結果、有効な取引行為の存在がなく、192条の成立は認められない。

 したがって、仮にCが、「Aを宝石の所有者であると信じ、かつ、そう信じるについて過失がない」場合であっても宝石の所有権を取得することはない。

 よって、Aは、この場合でも、Cに対して宝石の返還を請求することができるので、アの肢は誤りである。


 肢イについて


 Bが、Cに対し、所有権に基づき宝石の返還を請求することができるか否かは、宝石の所有権をBがなお有しているか否かで決せられる。

 そこで、Bが宝石の所有権を有しているのか否かを検討すると、A・C間の売買契約は、いわゆるBの所有物を目的とする他人物売買である。

 他人物売買契約について民法560条は 「他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。」 と規定する。

 この民法560条の規定について、他人物売買契約は債権契約として有効であるものの、それによって当然に所有権は移転しないことを規定したものと解されている。

 したがって、本件についても、Aは、宝石の所有権をBから取得して買主Cに移転させる義務を民法560条により負うことになる。

 しかし、宝石の所有権はA・C間の契約によって当然にCに移転しないこととなる。

 よってBはなお、宝石の所有権を有しているので、所有権に基づくCに対する返還請求は認められる。

 以上から、返還請求を否定するイの肢は誤りである。


   肢ウについて


 まず、Aが、未成年者であることを理由に、AC間の売買契約を取り消すことは可能である。

 なぜなら、Aは、法定代理人Bの同意なく、AC間の売買契約を締結しているので、民法4条1項違反が生じ、民法4条2項を根拠に取消権が発生しているからである。

 この取消権を行使した場合の効果については、民法121条が規定を置いている。

 民法121条は「取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。」と規定する。

 よって、AC間の売買契約は初めから無効となるものの、未成年者Aは民法121条但書によって「その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。」になる。

 その結果、Aは、AC間の売買契約という「行為」に「よって」受け取った30万円のうち「現に利益を受けているる限度」でこれを返還しなければならない。

 そこで、Aの受けとった30万円のうちどの範囲が「現に利益を受けている限度」かが問題となる。

 この点、遊興費として使用した10万円については、「現に利益を受けている限度」に含まれないと解されている。

 よって、30万円から10万円を引いた20万円について「現に利益を受けている限度」に該当するとして、Aは返還義務を負う。

 以上から、Aが未成年者取消しをした場合に、20万円Cに対して返還しなければならないとするウの肢は正しい。


 肢エについて


 エは、Aが成年に達した場合、未成年者であったことを理由にA・C間の売買契約を取り消すことができないとする。

 「取り消す」ことができない、ということは、「取消権がない」ということである。

 この点、AC間の売買契約は前述ア〜ウの肢の検討でわかるように、取消権が「発生」していることに問題はない。

 そこで、この取消権が「消滅」していれば、Aに「取消権がない」ということになる。

 そこで、Aが成年に達するということが取消権の「消滅」の要件かを検討するに、未成年者が「成年に達する」ということが未成年者取消権の「消滅」の要件と定めた規定は存在しない。

 よって、Aは、成年に達しても、いまだ取消権を有するので、A・C間の売買契約を取り消すことができる。

 したがって、取り消しできないとするエの肢は誤りである。


 肢オについて


 オの肢は、Aは、未成年者取消しができないということを記述している。

 そこで、エの肢と同様に、Aのもとに取消権があるのか、ないのかということを検討すればよい。

 オにおいて、Aは、法定代理人Bの同意を得て、Cに対して代金残額20万円の履行請求をしている。

 「履行の請求」を取消権者がした場合、民法125条2号の「履行の請求」に該当すると考えられる。

 民法125条は「前条の規定により追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。」と規定する。

 したがって、「前条の規定により追認をすることができる時以後」にAが代金残額20万円の「履行の請求」を「異議をとどめ」た場合には、民法125条の要件を具備し「追認をしたものとみなす」ことになる。

 これを本件についてみると、Aは、法定代理人の同意を得ているので、民法124条1項により「取消しの原因となっていた状況が消滅した」に該当し、追認をなしうる状態にある。

 よって、民法124条1項により追認をなしうる時以後に、「履行の請求」をなしているAは、民法125条但書の「異議を留めた」ということもないので、履行の請求をしたAは「追認をしたものとみなす」ことになる。

 そして、「追認をした」ということは追認の効果が生じることである追認の効果について、民法122条は「取り消すことができる行為は、第120条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。ただし、追認によって第三者の権利を害することはできない。」と規定する。

 よって、追認の結果、初めからその行為は有効なものとして扱われることになり、そもそも民法4条1項違反の瑕疵は存在しなかったことになる。

 以上から、民法4条1項違反が存在しない以上、4条2項に基づく取消権が「発生」しなかったことになる。

 よって、Aは、取消権を有しないので、取り消すことができないとするオの肢は正しい。

 



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