<司法書士科>
    
<司法試験科>
    
←メールソフトが立ち上がります







 さて、第6回目は、“薬事法距離制限違憲判決”です。

 過去問では、平成元年第5問・平成4年第6問・平成14年第14問・平成16年第11問で出題されています。

 今回の判決文は結構長かったため、かなり要約しています(それでもこの長さですが・・・)。

 要約にあたっては、原文の意味を損なわないようにできるだけ原文の言葉を用いました。

 しかし、要約である以上、原文そのものではありません。

 択一対策としては、判決のフレーズの“見覚え”も重要ですので、お手持ちの判例集を参照されるとより効果的に学習できるでしょう。


 本判決の全体の枠組みは、

 “一”の部分で許可制が合憲となるための要件を導き、

 “二(一)”で許可制の採用自体の合憲性を検討のうえ肯定し、

 そして、“三”で、許可基準である適正配置規制(距離制限)の合憲性を検討する前提として、適正配置規制の目的を明らかにしたうえで、

 “四”において適正配置規制(距離制限)の合憲性を検討するというものです。


 本判決は、許可制の採用が立法府の合理的裁量の範囲内として憲法二二条に反しないといえるためには、「重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置」といえなければならず、さらにそれが消極的、警察的目的でなされる場合には、この他に「許可制よりゆるやかな制限によっては目的を十分に達成することができない」と認められる必要があるとし、この要件を、「許可制を採用すること自体」と「個別の許可基準」のそれぞれについて検討しています。

 そして、「個別の許可基準」である“適正配置規制(距離制限)”について必要性・合理性が認められないとして違憲の判断をしています。



医薬品一般販売業の開設許可申請に対してなされた、広島県知事の不許可処分の取消しを求めた行政処分取消請求事件。



 一 憲法二二条一項の職業選択の自由と許可制

 (一)

 職業は、人が自己の生計を維持するためにする継続的活動であるとともに、分業社会においては、これを通じて社会の存続と発展に寄与する社会的機能分担の活動たる性質を有し、各人が自己のもつ個性を全うすべき場として、個人の人格的価値とも不可分の関連を有するものである。

 このような職業の性格と意義に照らすときは、職業は、ひとりその選択、すなわち職業の開始、継続、廃止において自由であるばかりでなく、選択した職業の遂行自体、すなわちその職業活動の内容、態様においても、原則として自由であることが要請されるのであり、したがって、憲法二二条一項は、狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由の保障をも包含しているものと解すべきである。

 (二)

 もっとも、職業は、その性質上、社会的相互関連性が大きいものであり、それ自身のうちになんらかの制約の必要性が内在する社会的活動であるが、その種類、性質、内容、社会的意義及び影響がきわめて多種多様であるため、その規制を要求する社会的理由ないし目的も、社会政策及び経済政策上の積極的なものから、消極的なものに至るまで千差万別で、その重要性も区々にわたるのである。

 そしてこれに対応して、現実に職業の自由に対して加えられる制限も、それぞれの事情に応じて各種各様の形をとることとなるのである。

 それ故、これらの規制措置が憲法二二条一項にいう公共の福祉のために要求されるものとして是認されるかどうかは、これを一律に論ずることができず、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量したうえで慎重に決定されなければならない。

 この場合、右のような検討と考量をするのは、第一次的には立法府の権限と責務であり、裁判所としては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及びその必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまるかぎり、立法政策上の問題としてその判断を尊重すべきものである。

 しかし、右の合理的裁量の範囲については、事の性質上おのずから広狭がありうるのであって、裁判所は、具体的な規制の目的、対象、方法等の性質と内容に照らして、これを決すべきものといわなければならない。

 (三)

 職業の許可制は、職業の自由に対する公権力による制限の一態様である。

 一般に許可制は、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定しうるためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要し、また、それが社会政策ないしは経済政策上の積極的な目的のための措置ではなく、自由な職業活動が社会公共に対してもたらす弊害を防止するための消極的、警察的措置である場合には、許可制に比べて職業の自由に対するよりゆるやかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によっては右の目的を十分に達成することができないと認められることを要するもの、というべきである。

 そして、この要件は、許可制の採用自体が是認される場合であっても、個々の許可条件について、更に個別的に右の要件に照らしてその適否を判断しなければならないのである。


 二 薬事法における許可制について。

 (一)

 薬事法は、医薬品等に関する事項を規制し、その適正をはかることを目的とし、医薬品等の供給業務に関して広く許可制を採用している。

 医薬品が、国民の生命及び健康の保持上の必需品であるとともに、これと至大の関係を有するものであることからすれば、不良医薬品の供給(不良調剤を含む。以下同じ。)から国民の健康と安全とを守るために、業務の内容の規制のみならず、供給業者を一定の資格要件を具備する者に限定し、それ以外の者による開業を禁止する許可制を採用したことは、それ自体としては公共の福祉に適合する目的のための必要かつ合理的措置として肯認することができる。

 (二)

 そこで進んで、許可条件に関する基準をみると、薬事法二六条二項によって医薬品の一般販売業に準用される薬事法六条は、二項において、設置場所の配置の適正の観点から許可をしないことができる場合を認め、四項においてその具体的内容を都道府県の条例に譲っている。

 そこで、以下において適正配置上の観点から不許可の道を開くこととした趣旨、目的を明らかにし、このような許可条件の設定とその目的との関連性、及びこのような目的を達成する手段としての必要性と合理性を検討し、この点に関する立法府の判断がその合理的裁量の範囲を超えないかどうかを判断することとする。

 三 薬局及び医薬品の一般販売業(以下「薬局等」という。)の適正配置規制の立法目的及び理由について。

 (一)

 薬事法六条二項、四項の適正配置規制に関する規定は、「薬事法の一部を改正する法律」により、新たな薬局の開設等の許可条件として追加されたものであるが、右の改正法律案の提案理由、薬事法の性格及びその規定全体との関係からみても、一部地域における薬局等の乱設による過当競争のために一部業者に経営の不安定を生じ、その結果として施設の欠陥等による不良医薬品の供給の危険が生じるのを防止すること、及び薬局等の一部地域への偏在の阻止によって無薬局地域又は過少薬局地域への薬局の開設等を間接的に促進することの二点が右の適正配置規制の目的であり、その中でも前者がその主たる目的をなし、後者は副次的、補充的目的であるにとどまると考えられる。

 これによると、右の適正配置規制は、主として国民の生命及び健康に対する危険の防止という消極的、警察的目的のための規制措置であり、そこで考えられている薬局等の過当競争及びその経営の不安定化の防止も、あくまでも不良医薬品の供給の防止のための手段であるにすぎないものと認められる。

 また、一般に、国民生活上不可欠な役務の提供の中には、当該役務のもつ高度の公共性にかんがみ、その適正な提供の確保のために、法令によって強い規制を施す反面、これとの均衡上、役務提供者に対してある種の独占的地位を与え、その経営の安定をはかる措置がとられる場合があるけれども、薬事法その他の関係法令は、そのような強力な規制を施していないので、その反面において既存の薬局等にある程度の独占的地位を与える必要も理由もなく、本件適正配置規制にはこのような趣旨、目的はなんら含まれていないと考えられるのである。

 (二) 略


 四 適正配置規制の合憲性について。

 (一)

 薬局の開設等の許可条件として地域的な配置基準を定めた目的が不良医薬品の供給の危険が生じるのを防止すること、及び無薬局地域又は過少薬局地域への薬局の開設等を間接的に促進することにあるとすれば、それらの目的は、いずれも公共の福祉に合致するものであり、かつ、それ自体としては重要な公共の利益ということができるから、右の配置規制がこれらの目的のために必要かつ合理的であり、薬局等の業務執行に対する規制によるだけでは右の目的を達することができないと言えれば、許可条件の一つとして地域的な適正配置基準を定めることは、憲法二二条一項に違反するものとはいえない。

 (二)

 薬局等の設置場所についてなんらの地域的制限が設けられない場合、薬局等が都会地に偏在し、これに伴って業者間に過当競争が生じ、その結果として一部業者の経営が不安定となるような状態が生じる可能性がある。

 しかし、このことから、医薬品の供給上の著しい弊害が、薬局の開設等の許可につき地域的規制を施すことによって防止しなければならない必要性と合理性を肯定させるほどに生じているものと合理的に認められるかどうかについては、更に検討を必要とする。
 
(1) 薬局の開設等の許可における適正配置規制は、設置場所の制限にとどまり、開業そのものが許されないこととなるものではない。

 しかしながら、薬局等を自己の職業として選択し、これを開業するにあたっては、経営上の採算のほか、諸般の生活上の条件を考慮し、自己の希望する開業場所を選択するのが通常であり、特定場所における開業の不能は開業そのものの断念にもつながりうるものであるから、前記のような開業場所の地域的制限は、実質的には職業選択の自由に対する大きな制約的効果を有するものである。

(2) 地域的制限がない場合に、薬局等が偏在し、一部地域で過当な販売競争が行われ、その結果前記のように医薬品の適正供給上種々の弊害を生じるかを検討するのに、  
(イ) まず、現行法上国民の保健上有害な医薬品の供給を防止するために、薬事法・薬剤師法により、薬事関係各種業者の業務活動に対する規制が定められ、刑罰及び行政上の制裁と行政的監督のもとでそれが励行、遵守されるかぎり、不良医薬品供給の危険の防止という警察上の目的は十分に達成することができるはずである。

 もっとも、違反そのものを根絶することは困難であるから、不良医薬品の供給による国民の保健に対する危険を完全に防止するための万全の措置として、更に進んで違反の原因となる可能性のある事由をできるかぎり除去する予防的措置を講じることは、決して無意義ではなく、その必要性が全くないとはいえない。

 しかし、このような予防的措置として職業の自由に対する大きな制約である薬局の開設等の地域的制限が憲法上是認されるためには、このような制限を施さなければ右措置による職業の自由の制約と均衡を失しない程度において国民の保健に対する危険を生じさせるおそれのあることが、合理的に認められることを必要とするというべきである。

(ロ) ところで、薬局の開設等について地域的制限が存在しない場合、薬局等の偏在・一部地域における業者間の過当競争が生じる可能性があり、その結果として一部業者の経営が不安定となるおそれがあることも、容易に想定されるところである。

 しかし、このような経営上の不安定が、実際上どの程度、良質な医薬品の供給をさまたげる危険を生じさせるかは、必ずしも明らかにされてはいない。

 またどの程度、医薬品の乱売に際して不良医薬品の販売の事実が発生するおそれがあったかは明らかでなく、大都市の一部地域における医薬品の乱売の原因が、主として現金問屋又はスーパーマーケットによる低価格販売にあると認められることや、一般に医薬品の乱売については、製造段階における一部の過剰生産とこれに伴う激烈な販売合戦、流通過程における営業政策上の行態等が有力な要因として競合していることが十分に想定されることを考えると、不良医薬品の販売の現象を直ちに一部薬局等の経営不安定、特にその結果としての医薬品の貯蔵その他の管理上の不備等に直結させることは、決して合理的な判断とはいえない。

 このようにみてくると、競争の激化‐経営の不安定‐法規違反という因果関係に立つ不良医薬品の供給の危険が、薬局等の段階において、相当程度の規模で発生する可能性があるとすることは、確実な根拠に基づく合理的な判断とは認めがたい。

(ハ) 仮に不良医薬品の供給の危険が発生する可能性を肯定するとしても、例えば、薬局等の偏在によって競争が激化している一部地域に限って重点的に監視を強化することによってその実効性を高める方途もありえないではなく、また、医薬品の貯蔵その他の管理上の不備等は、不時の立入検査によつて比較的容易に発見することができるような性質のものとみられること、更に医薬品の製造番号の抹消操作等による不正販売も、薬局等の段階で生じたものというよりは、むしろ、それ以前の段階からの加工によるのではないかと疑われること等を考え合わせると、薬局等に対する行政上の監督体制の強化等の手段によって有効に不良医薬品供給の危険発生を防止することが可能といえ、供給業務に対する規制や監督の励行等によって防止しきれないような危険が、相当程度において存すると断じるのは、合理性を欠くというべきである。

(ニ) 薬局等の経営の不安定によって、医薬品の販売の際に必要な注意、指導がおろそかになるという事態がそれ程に発生するとは思われないので、これをもって本件規制措置を正当化する根拠と認めるには足りない。

(ホ) 医薬品の乱売によって一般消費者による不必要な医薬品の使用が助長されるという弊害が生じうることは否定できないが、一般消費者に対する直接販売の段階における競争激化はその従たる原因にすぎないので、特に右競争激化のみに基づく乱用助長の危険は比較的軽少にすぎないと考えるのが、合理的である。

 のみならず、右のような弊害に対する対策としては、薬事法六六条による誇大広告の規制のほか、一般消費者に対する啓蒙の強化の方法も存するのであって、薬局等の設置場所の地域的制限によって対処することには、その合理性を認めがたいのである。

(ヘ) 以上から、薬局等の偏在‐競争激化‐一部薬局等の経営の不安定‐不良医薬品の供給の危険又は医薬品乱用の助長の弊害という事由は、薬局等の設置場所の地域的制限の必要性と合理性を肯定することはできない。

(3) 医薬品供給の適正化のためには薬局等の適正分布が必要であるところ、設置場所の制限は、薬局分布の適正化にとっての実効性に乏しく、また、無薬局地域又は過少薬局地域における医薬品供給の確保のためには他にもその方策があると考えられるから、無薬局地域等の解消を促進する目的のために設置場所の地域的制限のような強力な職業の自由の制限措置をとることは、目的と手段の均衡を著しく失するものといえ、とうていその合理性を認めることができない。

 本件適正配置規制は、医薬品供給の適正化と国民の保健上の危険防止の、二つの目的のための手段としての措置であることを考慮に入れるとしても、全体としてその必要性と合理性を肯定しうるにはなお遠いものであり、この点に関する立法府の判断は、その合理的裁量の範囲を超えるものといわなければならない。

 五 結論

 以上のとおり、薬局の開設等の許可基準の一つとして地域的制限を定めた薬事法六条二項、四項(これらを準用する同法二六条二項)は、不良医薬品の供給の防止等の目的のために必要かつ合理的な規制を定めたものということができないから、憲法二二条一項に違反し、無効である。



以上


戻る