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 さて、第4回目は、“特別区区長公選廃止事件”です。

 平成9年第14問・平成13年第16問・平成17年第12問に出題されています。

 平成7年第8問でも肢の一部として出題されています。

 本判決は、最高裁の判決だけ読んだのでは何のための判断だったのかがわかりにくい判決です。

 これを知るには、被告人らの主張を見る必要があります。

 そこで、本判決での被告人らの主張を整理すると、このようになります。


 〔規範〕

 贈収賄の成立には、職務に関して賄賂が収受される必要があるが、ここに言う「職務」は適法な職務でなければならない。

 〔あてはめ〕

 地方自治法第二八一条の二により「区議会議員がその区長を選任すること」は、長の直接選挙を求める憲法第93条第2項に反するので、適法な職務ということはできない。

 〔結論〕

 よって、「区議会議員がその区長を選任すること」に関して金銭の授受が行われたとしても、贈収賄罪は成立しない。



 そして、〔あてはめ〕部で「区議会議員がその区長を選任すること」が憲法第93条第2項に反すると言うには、その前提として、憲法93条2項で渋谷区における区長の直接選挙が保障されていること、すなわち、渋谷区が同条項にいう「地方公共団体」にあたることが言えなければならないのです。

 この、『渋谷区が同条項にいう「地方公共団体」にあたる』か?を判断したのが、本判決です。






 被告人らが渋谷区議会議員として区長候補を定め区長を選任するにあたり、金員の提供・授受が行われたことについて、贈収賄罪の成否が問題となった刑事事件。








 憲法は、93条2項において「地方公共団体の長、・・・は、その地方公共団体の住民が直接これを選挙する。」と規定している。

 憲法が特に一章を設けて地方自治を保障したのは、住民の日常生活に密接な関連をもつ公共的事務は、その地方の住民の手でその住民の団体が主体となって処理する政治形態を保障せんとする趣旨に出たものである。

 この趣旨に徴するときは、右の地方公共団体といい得るためには、事実上住民が経済的文化的に密接な共同生活を営み、共同体意識をもつているという社会的基盤が存在し、沿革的にみても、また現実の行政の上においても、相当程度の自主立法権、自主行政権、自主財政権等地方自治の基本的権能を附与された地域団体であることを必要とするものというべきである。

 そして、かかる実体を備えた団体については、その実体を無視して、憲法で保障した地方自治の権能を法律で奪うことは許されない。

 東京都の特別区についてこれをみるに、区は、明治以来地方団体としての長い歴史と伝統を有するものではあるが、未だ市町村のごとき完全な自治体としての地位を有していたことはなく、そうした機能を果たしたこともなかつた。

 かつて地方自治制度確立に伴い、区の法人格も認められたのであるが、依然として、区長は市長の任命にかかる市の有給吏員とされ、区は課税権、起債権、自治立法権を認められず、単にその財産および営造物に関する事務その他法令により区に属する事務を処理し得るにとどまり、殊に、日華事変以後区の自治権は次第に圧縮され、昭和一八年七月施行の東京都制の下においては、全く都の下部機構たるに過ぎなかつたのである。

 戦後、区は、従前の事務のほか法令の定めるところに従い区に属する事務を処理し(一四〇条)、区条例、区規則の制定権、区税および分担金の賦課徴収権が認められ(一四三条、一五七条ノ三ないし五)、区長公選制も採用することとなり(一五一条ノ二)、翌年制定された地方自治法においても、特別区は「特別地方公共団体」とし、原則として市に関する規定が適用されることとなつた(二八三条、附則一七条)。

 しかし、これら法律の建前が特別区の事務、事業の上にそのまま実現されたわけでなく、政治の実際面においては、区長の公選が実施された程度で,その他は都制下におけるとさしたる変化はなく、特別区は区域内の住民に対して直接行政を執行するとはいえ、その範囲および権限において、市の場合とは著しく趣を異にするところが少なくなかつた。

 このことは次に掲げる諸法律の規定に照らして、これを推認し得るに十分である。

 すなわち、地方自治法においても、都は条例で特別区について必要な規定を設けることができ(二八二条)、都知事は特別区に都吏員を配置することができることとした(同法施行令二一〇条)ほか、同法附則二条により現に効力を有する東京都制一九一条の規定に基づき、都制時代に都が処理していた事務の多くのものが依然として都に留保されていた。

 また特別法の規定においても、法律上市に属する事務とされていながら、東京都については、重要な公共事務が特別区の権限からはずされ或いは特別区全体を一つの対象として取扱い、都に市の性格と府県の性格とを併有せしめるものが、数多く認められる。

 特に特別区の財政上の権能については、区は、昭和二一年東京都制の一部改正により自主財政権が与えられ、独立して区税を賦課徴収し得ることとなつたが、同年の改正にかかる地方税法においては、区を独立の課税権を有する地方団体としては取り扱わず、昭和二五年の改正地方税法によってもこの建前は変更されることなく、現在に及んでいる。

 かように、特別区は昭和二一年九月都制の一部改正によって自治権の拡充強化が図られたにも関わらず、翌年四月制定の地方自治法をはじめその他の法律によってその自治権に重大な制約が加えられているのは、東京都の戦後における急速な経済の発展、文化の興隆と、住民の日常生活が、特別区の範囲を超えて他の地域に及ぶもの多く、都心と郊外の昼夜の人口差は次第に甚だしく、区の財源の偏在化も益々著しくなり、二三区の存する地域全体にわたり統一と均衡と計画性のある大都市行政を実現せんとする要請に基づくものであって、所詮、特別区が、東京都という市の性格をも併有した独立地方公共団体の一部を形成していることに基因するものというべきである。

 しかして、特別区の実体が右のごときものである以上、特別区は、憲法制定当時においてもまた昭和二七年八月地方自治法改正当時においても、憲法93条2項の地方公共団体と認めることはできない。

 従って、改正地方自治法が右公選制を廃止し、これに代えて、区長は特別区の議会が都知事の同意を得て選任するという方法を採用したからといって、憲法93条2項に違反するものということはできない。

 以上


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