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 さて、第2回目は、“八幡製鉄政治献金事件”。

 これもまた、知らない人はいない重要判例です。

 平成15年第5問・同第9問でズバリ聞かれており、それのみならず、平成5年第7問・平成8年14問では、前提知識として聞かれています。

 本判決は、取締役の政治献金が旧商法266条第1項5号「法令又ハ定款ニ違反スル行為」といえるかが争われています。

 ここでの主張は以下の3点です。

 @会社の政治献金は、定款の目的の範囲外の行為だから定款違反である。

 A会社の政治献金は、国民の参政権を侵害し違憲だから公序良俗に反し(民法90条)法令違反である。

 B会社の政治献金は、取締役の忠実義務(旧商法254ノ2)に反し法令違反である。



 皆さんがよく目にするフレーズとして、『政党の憲法上の地位』の部分と『法人の政治活動の自由』の部分とがありますが、前者は@において政治献金が会社に期待・要請される行為であることをいうための事情であり、後者はAにおいて政治献金が公序良俗に反しないことをいうための事情です。

 この点に着目して判旨を読んでみてください。







 株主が、取締役のなした政治献金が「法令・定款」に違反するとして、取締役の責任(旧商法266条第1項)を追及した株主代表訴訟。








 一 定款違反について

 会社は定款に定められた目的の範囲内において権利能力を有するが、目的の範囲内の行為とは、その目的を遂行するうえに直接または間接に必要な行為をいう。

 会社は、社会的実在として社会的作用を負担せざるを得ない以上、社会通念上、会社に対して期待・要請される行為を行うことができる。

 そしてこの行為は、会社にとっても、企業体としての円滑な発展を図るうえで相当の価値と効果を認めることができるから、会社に対し期待・要請される行為もまた、間接的に、目的遂行のうえに必要なものであるといえる。

 以上の理は、会社が政党に政治資金を寄附する場合においても同様である。

 憲法は政党について規定するところがなく、これに特別の地位を与えてはいないのであるが、憲法の定める議会制民主主義は政党を無視しては到底その円滑な運用を期待することはできないのであるから、憲法は、政党の存在を当然に予定しているものというべきであり、政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素なのである。

 そして同時に、政党は国民の政治意思を形成する最も有力な媒体であるから、政党のあり方いかんは、国民としての重大な関心事でなければならない。

 したがって、政党の健全な発展に協力することは、会社に対して期待されるところであり、政治資金の寄附もその一態様である。

 会社の構成員が政治的信条を同じくするものでないとしても、会社による政治資金の寄附が、会社に対して期待・要請されるかぎりでなされる以上、会社にそのような政治資金の寄附をする能力がないとはいえない。

 本件政治資金の寄附は、八幡製鉄株式会社の定款の目的の範囲内の行為である。



 二 法令違反について(その1)


 株式会社の政治資金の寄附が、国民の参政権を侵害するものとして憲法に反し、民法九〇条に反しないか。

 確かに、憲法上の参政権は自然人たる国民にのみ認められたものであることは、所論のとおりである。

 しかし、会社が、納税の義務を有する以上、納税者たる立場において、国や地方公共団体の施策に対し、意見の表明その他の行動に出たとしても、これを禁圧すべき理由はない。

 のみならず、憲法第三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものと解すべきであるから、会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有するのである。

 政治資金の寄附もまさにその自由の一環である。

 論旨は、会社が政党に寄附をすることは国民の参政権の侵犯であるとするが、政党への寄附は、事の性質上、国民個々の参政権の行使そのものに直接影響を及ぼすものではないばかりでなく、政党の資金の一部が選挙人の買収にあてられることがあるにしても、それはたまたま生ずる病理的現象に過ぎず、しかも、かかる非違行為を抑制するための制度は厳として存在するのであって、いずれにしても政治資金の寄附が、選挙権の自由なる行使を直接に侵害するものとはなしがたい。

 所論は大企業による巨額の寄附は金権政治の弊を産むべく、また、もし有力株主が外国人であるときは外国による政治干渉となる危険もあり、さらに豊富潤沢な政治資金は政治の腐敗を醸成するというのであるが、その指摘するような弊害に対処する方途は、さしあたり、立法政策にまつべきことであって、憲法上は公共の福祉に反しないかぎり、会社といえども政治資金の寄附の自由を有するといわざるを得ず、これをもつて国民の参政権を侵害するとなす論旨は採用のかぎりでない。

 以上説示したとおり、株式会社の政治資金の寄附はわが憲法に反するものではなく、民法九〇条に違反するものではない。



 三 法令違反について(その2)


 取締役による本件政治資金の寄附は、商法二五四条ノ二に定める取締役の忠実義務に違反するか。

 この点、取締役が、その職務上の地位を利用し、自己または第三者の利益のために、政治資金を寄附した場合に、忠実義務違反が認められる。

 会社が政治資金の寄附をなしうる以上、取締役が会社の機関としてその衝にあたることは、特段の事情のないかぎり、取締役たる地位を利用した、私益追求の行為だとすることはできない。

 いうまでもなく取締役が会社を代表して政治資金の寄附をなすにあたっては、その会社の規模、経営実績その他社会的経済的地位および寄附の相手方など諸般の事情を考慮して、合理的な範囲内において、その金額等を決すべきであり、右の範囲を越え、不相応な寄附をなすがごときは取締役の忠実義務に違反する。

 八幡製鉄株式会社の資本金その他所論の当時における純利益、株主配当金等の額を考慮にいれても、本件寄附が、右の合理的な範囲を越えたものとすることはできないのである。

 以上のとおりであるから、被上告人らがした本件寄附は商法二五四条ノ二に定める取締役の忠実義務に違反しない。



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