記念すべき第1回目は、“マクリーン事件”
言わずと知れた重要判例中の重要判例です。
平成6年第2問・平成11年第11問・平成18年第2問と3回も出題されています。
判旨も、ただ闇雲に読んでいたのではなかなか頭に入りにくいものです。
そこで、「何を言うための判断だったのか」を意識して読んでみるとよいでしょう。
マクリーン事件では、法務大臣の在留期間更新不許可処分の違法性が問題となりました。
《判旨》の(二)の部分で、法務大臣の判断が違法となるための要件を指摘した上で、(三)であてはめています。
有名な「外国人の政治活動の自由」のくだりは、
法務大臣の判断が『全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らか』かを判断する際になされたものです。
要するに、
『外国人にも政治活動の自由が保障されるけど、だからといって法務大臣の判断は拘束されないよ。だから法務大臣の判断に問題はないよ。』
ということなんですね(少し意訳しすぎですが…)。
この点を意識して
《判旨》を読んでみてください。
アメリカ人のロナルド・アラン・マクリーン氏が、
法務大臣の「在留期間更新不許可処分」の取消しを求めた事件
(一)
憲法二二条一項は、日本国内における居住・移転の自由を保障する旨を規定するにとどまり、外国人がわが国に入国することについてはなんら規定していない。
このことは、国際慣習法上、国家は、外国人を自国内に受け入れるかどうか、また、これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを、自由に決定することができるものとされていることと、その考えを同じくするものと解される。
したがって、
憲法上、外国人は、わが国に入国する自由・在留の権利・引き続き在留することを要求しうる権利を保障されているものではない。
この憲法の趣旨を前提として、出入国管理令は、外国人に対し、一定の期間を限り、わが国への上陸を許すこととしているものであるから、上陸を許された外国人は、その在留期間が経過した場合には当然わが国から退去しなければならない。
もっとも、出入国管理令は、当該外国人が希望するときには在留期間の更新を申請することができるとし、その申請に対しては法務大臣が
「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り」これを許可することができるものと定めている。
そして、その判断基準が特に定められていないことから、更新事由の有無の判断は
法務大臣の広汎な裁量に委ねられている。
(二)
行政庁の処分は、法の認める裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合に違法となる。
そして、出入国管理令二一条三項に基づく法務大臣の
「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由」があるかどうかの判断が違法となるのは、法務大臣の判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合である。
(三)
以上の見地に立って、被上告人の本件処分の適否について検討する。
上告人の在留期間更新申請に対する法務大臣の不許可処分は、上告人の在留期間中の無届転職と政治活動を理由としており、なかでも政治活動が重視されたものと解される。
思うに、憲法第三章の諸規定による基本的人権の保障は、
権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきであり、政治活動の自由についても、わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、その保障が及ぶ。
しかしながら、外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、
右のような外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎないので、在留期間中になされた、憲法の基本的人権の保障を受ける行為を
在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくされないことまでの保障が与えられているものと解することはできない。
在留中の外国人の行為が合憲合法な場合でも、法務大臣がその行為を当不当の面から日本国にとって好ましいものとはいえないと評価し、また、右行為から将来当該外国人が日本国の利益を害する行為を行うおそれがある者であると推認することは、右行為が上記のような意味において憲法の保障を受けるものであるからといってなんら妨げられるものではない。
上告人の在留期間中のいわゆる政治活動は、その行動の態様などからみて直ちに憲法の保障が及ばない政治活動であるとはいえない。
しかしながら、上告人の右活動のなかには、わが国の基本的な外交政策を非難し日米間の友好関係に影響を及ぼすおそれがないとはいえないものも含まれており、
法務大臣が、当時の内外の情勢にかんがみ、上告人の右活動を日本国にとって好ましいものではないと評価し、
また、上告人の右活動から同人を将来日本国の利益を害する行為を行うおそれがある者と認めて、在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるものとはいえないと判断したとしても、その事実の評価が明白に合理性を欠き、その判断が社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるとはいえない。
他に被上告人の判断につき裁量権の範囲をこえ又はその濫用があったことをうかがわせるに足りる事情の存在が確定されていない本件においては、
被上告人の本件処分を違法であると判断することはできないものといわなければならない。
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