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さて、第7回目は、“小売市場事件”です。

過去問では、平成4年第6問・平成8年第19問・平成12年第16・17問・平成14年第6問・平成16年第11問で出題されています。

メジャーな判例だけあって、かなりの出題数となっています。

前回の“薬事法距離制限違憲判決”と同様、経済的自由権に関する判例ですが、
“薬事法距離制限違憲判決”では、距離制限が『不良医薬品の供給の危険が生じるのを防止』するという消極目的でなされているとしており、『薬局等の過当競争及びその経営の不安定化の防止』という点に触れてはいるものの、『あくまでも不良医薬品の供給の防止のための手段であるにすぎない』としています。

これに対して本判決は、規制目的を『小売市場の乱設に伴う小売商相互間の過当競争によって招来されるのであろう小売商の共倒れから小売商を保護するため』の積極目的であるとしているという違いがあります。

本件で被告人は、知事の許可を得ずに建物を小売商に貸し付ける行為を罰する小売商業調整特別措置法二二条一号が、憲法に反し無効であるとして無罪を主張しています。


具体的には、
@小売市場の開設経営を知事の許可にかからしめている点で、営業の自由を保障する憲法二二条一項に反する。
A指定都市の小売市場のみを規制の対象としている点で、憲法一四条に反する。
B「十店舗未満の小売市場」および「スーパーマーケット」を規制の対象としていない点で、憲法一四条に反する。
というものです。

他に憲法二五条一項違反の主張もなされていますが、これといった判断はなされていないので、省略しました。
被告人が、小売商業調整特別措置法3条に基づく政令指定地域において、知事の許可を得ることなく、その所有する建物を小売商に貸し付けたとして起訴された刑事事件
(@の点について)

小売商業調整特別措置法は、同法所定の市の区域内で、同法所定の形態の小売市場を開設経営しようとする者に、同法所定の許可を受けることを要求し、かつ、同法五条各号に掲げる事由がある場合には、右許可をしないものとしているので、小売市場の開設経営をしようとする者の営業の自由を制限するものである。


 そこで、右の営業の自由に対する制限が憲法二二条一項に抵触するかどうかについて考察することとする。

 憲法二二条一項は、国民の基本的人権の一つとして、職業選択の自由を保障し、そこには営業の自由も含まれており、憲法が、個人の自由な経済活動を基調とする経済体制を一応予定しているものということができる。

しかし、憲法は、個人の経済活動につき、その絶対かつ無制限の自由を保障する趣旨ではなく、公共の福祉の要請に基づき、その自由に制限が加えられることのあることは、右条項自体の明示するところである。

そして、右条項に基づく個人の経済活動に対する法的規制が、

個人の自由な経済活動からもたらされる諸々の弊害を除去ないし緩和するための消極的規制として、必要かつ合理的な規制である限りにおいて許されるべきことはいうまでもない。

のみならず、憲法が、全体として、福祉国家的理想のもとに、社会経済の均衡のとれた調和的発展を企図していることなどからすると、憲法は、国の責務として積極的な社会経済政策の実施を予定しているものということができ、

個人の経済活動の自由に関する限り、個人の精神的自由等に関する場合とは異なり、右社会経済政策の実施の一手段として、これに一定の合理的規制措置を講ずることは、もともと、憲法が予定し、かつ、許容するところと解される。

国は、積極的に、国民経済の健全な発達と国民生活の安定を期し、もつて社会経済全体の均衡のとれた調和的発展を図るために、立法により、個人の経済活動に対し、一定の規制措置を講ずることができる。

もっとも、個人の経済活動に対する法的規制には、その規制の対象、手段、態様等において自ら一定の限界が存するものと解するのが相当である。


ところで、法的規制措置の必要の有無や法的規制措置の対象・手段・態様などの判断にあたっては、
対象となる社会経済の実態についての正確な基礎資料が必要であり、具体的な法的規制措置が現実の社会経済にどのような影響を及ぼすか、その利害得失を洞察するとともに、広く社会経済政策全体との調和を考慮する等、
相互に関連する諸条件についての適正な評価と判断が必要であるが、
このような評価と判断の機能を果たす適格を具えているのは立法府であるから、立法府の裁量的判断にまつほかない。
したがって、右に述べたような個人の経済活動に対する法的規制措置については、立法府の政策的技術的な裁量に委ねるほかはなく、
裁判所は、立法府の右裁量的判断を尊重するのを建前とし、ただ、立法府がその裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理であることの明白である場合に限って、これを違憲として、その効力を否定することができるものと解するのが相当である


これを本件についてみると、

本法は、立法当時における中小企業保護政策の一環として成立したものであり、

本法所定の小売市場を許可規制の対象としているのは、小売商が国民のなかに占める数と国民経済における役割とに鑑み、本法一条の立法目的が示すとおり、経済的基盤の弱い小売商の事業活動の機会を適正に確保し、かつ、小売商の正常な秩序を阻害する要因を除去する必要があるとの判断のもとに、その一方策として、小売市場の乱設に伴う小売商相互間の過当競争によって招来されるのであろう小売商の共倒れから小売商を保護するためにとられた措置であると認められ、
一般消費者の利益を犠牲にして、小売商に対し積極的に流通市場における独占的利益を付与するためのものでないことが明らかである。

しかも、本法は、その所定形態の小売市場のみを規制の対象としているにすぎないのであって、小売市場内の店舗のなかに政令で指定する野菜、生鮮魚介類を販売する店舗が含まれない場合とか、所定の小売市場の形態をとらないで右政令指定物品を販売する店舗の貸与等をする場合には、これを本法の規制対象から除外するなど、過当競争による弊害が特に顕著と認められる場合についてのみ、これを規制する趣旨であることが窺われる。

これらの諸点からみると、本法所定の小売市場の許可規制は、国が社会経済の調和的発展を企図するという観点から中小企業保護政策の一方策としてとった措置ということができ、その目的において、一応の合理性を認めることができないわけではなく、

また、その規制の手段・態様においても、それが著しく不合理であることが明白であるとは認められない


そうすると、本法三条一項、同法施行令一条、二条所定の小売市場の許可規制は憲法二二条一項に違反するものとすることができない。

(Aの点について)

本法三条一項、同法施行令一条および別表一がその指定する都市の小売市場に限って規制の対象としたのは、

小売市場の当該地域社会において果たす役割、当該地域における小売市場乱設の傾向等を勘案し、本法の上記目的を達するために必要な限度で規制対象都市を限定したものであって、その判断が著しく合理性を欠くことが明白であるとはいえない
から、

その結果として、小売市場を開設しようとする者の間に、地域によって規制を受ける者と受けない者との差異が生じたとしても、そのことを理由として憲法一四条に違反するものとすることはできない。

(Bの点について)

本法所定の小売市場以外の小売市場を規制の対象とするかどうか、スーパーマーケットを規制の対象とするかどうかは、いずれも立法政策の問題であって、これらの規制の対象としないからといって、そのために本法の規制が憲法一四条に違反することになるわけではない。



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