どうすれば司法書士試験に合格できるのでしょうか?
ここでは「本試験過去問」と「試験結果」から「司法書士試験合格に要求される力」とは何なのかを考えてみましょう。

1.出題形式の分析〜択一式は配分に着目

 先ほど「司法書士試験とは?」でも見ましたが、司法書士試験は午前科目、午後科目に分かれ、
 それぞれ択一35問ずつと午後科目での記述式2題が出題されます。
 午前、午後の択一式については、各科目の出題問題数に大きな変化はなく、
 毎年ほぼ同じボリューム配分で出題がなされており、今後も変わらないものと考えられます。


〔科目間の配分〕



憲法 3問
民法 21問
商法(会社法等) 8問
刑法 3問



不動産登記法 16問
商業登記法 8問
供託法 3問
民事訴訟・執行・保全法 7問
司法書士法 1問


重要科目は民法、そして登記法!

まず、午前科目については「民法」に着目してください。
35問中、21問も出題されています。午前科目のうち、実に60%を占めるのですから、
試験の合格にとって民法で得点できることが重要といえ、まずは民法を習得する必要があることが分かります。
そして、その次に、「商法(会社法)」の8問が来ます。
次に、午後科目をみると、「不動産登記法」16問、「商業登記法」8問の計24問が出題され、
午後科目の68%を占めており、午後科目においては、両登記法が重要だということになります。



民法は、他の科目を理解する助けになる科目として位置づけられるので、
他の科目を勉強する上で民法の理解が必要となります。
その意味でも民法は重要な科目といえます。

(1)民法の理解と商法・会社法  

民法と商法(会社法)との関係は、民法は、“私法の一般法”とされています。
これは、商法に規定がない事項については、民法の規定が適用されるということを意味します。  
すなわち、商法は、民法とは異なる取り扱いを定めた規定の集まりであって、
民法の条文を前提として商法の規定が組み立てられています。

ですから、商法の規定がない部分については民法の規定を利用するという発想がそこには存在しています。  
そのため、商法の理解については、民法の理解がしっかりしていればしているほど、
商法がなにゆえそのような条文・制度を設けたのかの意味を理解できることになるのです。

(2)民法の理解と民事訴訟法・民事執行法・民事保全法  

民事訴訟法・執行法・保全法は、
民法上(広くは民事法上)のさまざまな権利を具体化するための手続きを定めています。  

ですから、民法上(民事法上)の権利としてどのようなものがあるのかということを理解することが、
手続法の上で考慮すべき様々な利益の意味を理解する前提となるのです。  

また、民事訴訟法・執行法・保全法独自の規律についても、なぜそれらが独自といえるのかを理解するためにも、
手続法上特に考慮しなければならない様々な利益の意味を理解していなければならず、そのために民法等の理解が必要となります。  

このように、民法という実体法の理解が、手続法独自の領域を考える上で、必須の前提となっています。

(3)民法の理解と不動産登記法・商業登記法  

不動産登記法は
、民法上の不動産に関する権利(主に物権)を公示するための登記制度を定めたものですから、
民法上の不動産物権の理解がなければ、なぜそのような公示方法・手続きが不動産登記法上認められたのかを理解できません。  

また、商業登記法も商法・会社法の理解がなければ、なぜそのような商業登記が法律で定められたのかを理解できず、
この商法・会社法の理解にとって民法の理解が不可欠であることからすれば、
民法の理解が商業登記法の理解の大前提となっているといえるのです。  

このように、不動産登記法・商業登記法の理解にとっても民法の理解が不可欠であるといえます。

(4)民法の理解と供託法  

供託法は、供託について定めた法律です。供託とは、債権者が弁済を受領しない場合に、
弁済者が債権者のために弁済の目的物を供託所に寄託してその債務を免れる制度をいい、
弁済供託については民法の第三編債権に規定が設けられています。  

ですから、民法においてこの「供託」がどのようなものであるのかについて理解しておかなければ、
供託法の理解ができないのは当然であって、この点でも民法が供託法の理解にとって重要です。

(5)まとめ  

以上から、司法書士の試験科目において、民法の理解が前提となっていない科目は、
憲法、刑法、司法書士法の3法だけであることがお解りいただけたと思います。  

しかも、不動産登記法・商業登記法は書式(記述式)問題もあるわけですから、民法の理解がないと、
司法書士試験の合格はおぼつかないといえるでしょう。



足切り点に注意!

また、午前択一、午後択一、記述式それぞれにいわゆる「足切り点」という基準点が設定されています。
この足切り点とは、「一定の点数に達しなければ、それだけで不合格になる」という基準点です。
たとえ3つの合計点が合格点を超えていたとしても、どれか1つでもこの「足切り点」に達しなければ、
筆記試験としては「不合格」となってしまいます。
試験の合格には、「足切り点クリアー」が必要であり、それは、試験委員が受験生に対して、
バランスよく得点できることを求めているということです。

「足切り点クリアー」の方法

では、足きり点をクリアーするにはどうすればよいでしょうか。
「午前択一」「午後択一」「記述式」のそれぞれについて、ここ4年間の足切り点を観察してみましょう。

午前科目

105点中、78点〜87点の間を推移しています。平均すると82.5点が足切りラインの目安になります。これは、満点中78.5%、およそ8割の得点が必要になるということです。

午後科目
105点中、72点〜84点の間を推移しています。平均すると77.3点が足切りラインの目安になります。
これは、満点中73.6%、およそ7割強の得点が必要になるということです。
記述式 52点中、25.5点〜31.5点の間を推移しています。平均すると29.6点が足切りラインの目安になります。
これは、満点中56.9%、およそ6割弱の得点が必要になるということです。

このようなデータからは、次の2つがわかります。
 @午前科目択一の足切り点の方が、午後科目択一よりも高い
 A択一式に比べて記述式の足切り点が低い
そして、 @は、「午後の科目よりも、午前の科目が得意な受験生が多い」ということであり、
ここからは、
  ・午前科目については、出題割合の高い「民法」を落とすことができないこと、
  ・午後科目については、出題割合の高い「両登記法」をマスターすれば
   他の受験生に対して優位に立てること がわかります。
   (なお、Aは、「択一式よりも記述式の方が、高得点が出にくい」ということを意味しますが、
   この点は記述式と関連するので、後述します。)

以上から、「民法・両登記法で負けないこと」が「足切りクリアー」の方法と考えられますが、実際にはどうすればよいでしょうか?
そもそも足切り点は、その年の受験生の出来の良し悪しによって変動します。
問題が易しい年には足切り点が上がりますし、難しければ下がります。
これは、他の受験生が出来ない問題を正解できなくても大きなダメージにはならないものの、
皆が取れる問題を取りこぼすと大きなダメージになるということを意味します。
「皆ができる問題はきちんと取れるようにする」ことが、他の受験生に「負けないこと」につながります。

このことは、司法書士試験に限らず他の資格試験でも言えることですが、司法書士試験では足切り点がある分、特に注意する必要があります。

「皆ができる問題」とは・・・

皆ができる問題とは何か?をあきらかにするために、出題の内容面も分析して見ましょう。
これにも特徴があります。それは、「法律の条文に即した基本的な出題が多い」ということです。
試験科目全般を通していえることですが、法制度や条文をコツコツと勉強することで正解できる問題が多いのです。

言いかえれば、「基本的な知識」の出題が多いということです。

この他に、条文ではなく、判例の知識を問う問題(憲法・民法・刑法など)や、
先例の知識を問う問題(登記法・供託法)もあります。
中には、一度しか問われないものもありますが、重要な判例・先例については何度も出題されています。

このような特徴からすると、択一対策としては過去問を何度も解くことを通じて、
司法書士試験における「基本知識」をマスターすることが最も効果的な対策になります。

過去問分析をしっかり行うことで、誰もが取れる問題を得点できるようになり、足切り点クリアが出来るようになるのです。




判例とは過去に下された裁判を指します。先例とは、以前にあった例で、同種の事例の基準となるものをいいます。
判例も先例も、法律の条文ではなく個々の具体的な事件・事案に対して下された判断ですが、
事実上の拘束力を持っており、同種の事件・事案があった場合には基準として利用されます。
法律の学習では、規範としての条文の学習と共に、これらの判例・先例の学習が大切になります。

2.記述式

記述式試験は、不動産登記と商業登記それぞれ1問ずつ出題されます。
それぞれ一定の事例が設けられ、依頼者から登記申請の代理を依頼された場合に必要となる
申請書を作成する能力が問われます。

不動産登記では、不動産登記事項証明書が示され、設問の事例を分析し、
民法を中心とした権利の実体関係を判断し、これに基づいてどのような登記ができるか(必要か)を判断し、
解答欄へ記述して解答します。

商業登記では、会社の現在の状態を表す登記事項証明書が提示され、
株主総会決議および取締役会決議が示された上で、当該会社の実体関係を判断し、
いかなる登記が必要かを判断し、解答欄へ記述します。

科目のバランスも重要

「足切り点クリアー」の重要性は先ほど述べましたが、
記述式においては、不動産登記法と商業登記法の合計点で判断します。

6割弱の得点でクリアできるので、片方の科目が苦手でも場合によっては足切り点をクリアすることが可能になります。
ただ、記述式試験では一つの登記をミスっただけでも大幅に減点されることがあり、
そうなってしまうと巻き返しができなくなってしまいます。
ですので、片方の科目だけに重点をおかず、それぞれの科目で点数をかき集められるようにしておくことが大切です。

時間配分も重要な要素

先ほどの分析で、「A択一式に比べて記述式の足切り点が低い」という点を指摘しましたが、
これは「択一式よりも記述式の方が、高得点が出にくい」ということです。

そして、その原因としては、
・申請書の記載内容が実体関係の判断によって変化するため、問題の分析を誤るとドミノ式に点数を失う性質があること、
・午後の択一式と記述式の試験が同じ時間枠で行われるため
(択一35問、記述式2問を、計3時間で解答しなければなりません)、択一式に手間取って時間配分に失敗すると、
記述式の解答に必要な時間を確保できずに完答できなかったり、あるいは焦ってミスをしたりすること、

などが考えられます。
このため、午後の試験における択一式・記述式の時間配分も、合格のための重要な要素になってくるのです。


3.まとめ

以上からわかる「要求される力」とは、
択一式においては、「民法・両登記法について足切り点をクリアーする力」であり、

記述式においては、 「民法・会社法などの実体法を駆使して法律関係を整理する力」と
「時間内に、それを申請書の形にまとめ上げる力」であるといえます。

さあ、司法書士試験で何が求められているか、イメージがわきましたか?

イメージがわいたところで、「要求される力を付ける中法研のカリキュラム」の説明へ進みましょう!