Lesson 15

(H14-1)

Aは、Bと婚姻をしていたが、ある日、Bが家を出たまま行方不明となった。この事例に関する次の1から5までの記述のうち、正しいものはどれか。

1 Bの生死が7年以上不明の場合、Aは、Bの失踪宣告を得ることができるので、婚姻を解消するためには、失踪宣告の申立てをする必要があり、裁判上の離婚手続によることはできない。

2 Bの失踪宣告がされた場合、Bが死亡したものとみなされる7年の期間満了のときより前に、Aが、Bが既に死亡していたものと信じて行ったBの財産の売却処分は、有効とみなされる。

3 Bの失踪宣告がされた後、Bが家出した日に交通事故で死亡していたことが判明した場合、Bが死亡したとみなされる時期は、Bの失踪宣告が取り消されなくとも、現実の死亡時期までさかのぼる。

4 Bの失踪宣告がされた後、Bが生存していたことが判明した場合、Bの失踪宣告が取り消されない限り、Aは、相続により取得したBの遺産を返還する必要はない。

5 Bの失踪宣告がされた後、Aが死亡し、その後にBの失踪宣告が取り消された場合、Bは、Aの遺産を相続することはない。









【解説】
1 誤り

まず、1の肢は失踪宣告ができるとする。この点、失踪宣告の要件は、民法30条が定める。
民法30条1項は「不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。」と定める。
本件で、Bの生死が七年以上不明であるので、民法30条1項の適用により失踪宣告をすることができる。
したがって、前段のBの失踪宣告を得ることができるという点は正しい。
では、後段の、婚姻を解消するために、失踪宣告の申し立てが必要であり、裁判上の離婚手続によることはできないとする点はどうか。
この点、婚姻の解消は、一方当事者の死亡によっても生ずると解されている。
よって、失踪宣告により被宣告者は死亡したものと看做されるので(31条)、失踪宣告により婚姻を解消できるとする点は正しい。
しかし、他方で、裁判上の離婚原因として民法770条1項3号は「配偶者の生死が三年以上明らかでないとき」と定めるので、失踪宣告を受けなくても、Bは七年間生死不明であるから、裁判上の離婚をすることができる。
よって、失踪宣告を受けなくても、裁判上の離婚により婚姻を解消できるので、後段は誤りである。


2 誤り

失踪宣告がなされた場合の効果は、民法31条が定める。
民法31条は「前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。」と規定する。
Bは家を出たまま行方不明となったのであるから、本事例は、普通失踪宣告として民法30条1項の規定による失踪宣告を受ける場合である。
よって、失踪宣告がなされた場合、民法31条により、Bは期間満了時である生死不明から七年後の時に死亡したことになる。
とすると、七年経過前はなおBは死亡していないので、AがBの財産を売却する処分は、Bという他人の権利を処分するものとして無効になる。 以上から、このAの行為を有効とする2の肢は誤りである。


3 誤り

失踪宣告により、本事例の場合に、Bが死亡したとみなされる時期は、民法31条により、七年を経過した時である。
では、3の肢のように、Bが家出した日に交通事故で死亡していたことが判明した場合にはどうなるのか。
この点民法32条が失踪宣告の取り消しについて定めている。
民法32条1項は「失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。」と規定する。
このように、失踪宣告によって生じた死亡みなしの効果は、現実に死亡した日時が異なっていても、民法32条による取消をしなければ、死亡みなしの効果は失わない。
よって、3の肢は、この取消をしなくても、現実の死亡時期までさかのぼるとする点で誤りである。


4 正しい

3の解説で書いたように、失踪宣告の取消(32条1項)をしなければ、失踪宣告の効果は失わない。
よって、4においても、Bの生存が明らかになったとしても、失踪宣告の取消をしない限り、B死亡みなしの効果はなお存続しているので、Aが、Bの遺産を相続したことはなお有効になる。
その結果、Aは、Bの遺産を返還する必要はなくなる。
以上から、4の肢は正しい。


5 誤り

Bが、Aの遺産を相続するためには、相続の要件を具備する必要がある。
BがAの遺産を相続するのは、Aの配偶者という地位に基づいてなされると考えられる(民法890条)。
そこで、Aが死亡した時に、BがなおAの配偶者の地位にあることが必要となる。
もっとも、Bは失踪宣告を受け、Aが死亡した時には失踪宣告の取消がないので、死亡みなしの状態にある。
よって、AB間の婚姻関係は解消しているのであり、BはAの配偶者の地位にない。その結果、BはAの遺産を相続できなさそうである。
しかし、本事例で、Bの失踪宣告は、Aの死亡後に取消されている。この取消によって、A死亡時にBが配偶者の地位を有していることになれば、BはAの遺産を相続しうる。
そこで、失踪宣告の取消の効果についてみると、これを直接定めた規定はないが、失踪宣告の効果として生じた身分上・財産上の法律関係の変動はなかったものとみなされると一般に解されている。
したがって、取消の結果、Bは失踪宣告により配偶者の地位を失わなかったことになるので、A死亡時においても、なお配偶者の地位にある。
以上から、Bは、A死亡時に、Aの配偶者の地位にあるので、BはAの遺産を相続できる。よって、5の肢は誤りとなる。


   Lesson 16


(H14-2)

Aは、代理権がないにもかかわらず、Bのためにすることを示して、Cとの間でB所有の甲土地を売却する旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。この事例に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らして誤っているものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。

ア Bは、Aから甲土地の売買代金の一部を受領した。この場合、Bは、Aの無権代理行為を追認したものとみなされる。

イ Cは、Bに対し、本件売買契約を取り消すとの意思表示をした。この場合、Cは、Aに対し、無権代理人としての責任を追及して本件売買契約の履行を求めることができる。

ウ CがAに対し、無権代理人としての責任を追及した。この場合、Aは、自己の代理行為につき表見代理が成立することを主張して無権代理人としての責任を免れることができる。

エ Cは、本件売買契約を締結したときに、Aに代理権がないことを知っていた。この場合、Cは、本件売買契約を取り消すことはできない。

オ Cは、Aに対し、無権代理人の責任に基づく損害賠償を請求した。この場合、Cは、甲土地を転売することによって得られるはずであった利益に相当する額を請求することができる。


1 アエ  2 アオ  3 イウ  4 イエ  5 ウオ












【解説】
ア 正しい

Aは、代理権がないにも関わらず、Bのためにすることを示して、Cと契約をしているので、このAC間の契約は無権代理に該当する。
そして、アの肢においては、本人Bが、Aから甲土地の売買代金の一部を受領している。この場合、本人は追認をしたものとみなされるか?
この点、無権代理の場合の本人による追認は、民法113条が定める。
同条2項によると、無権代理人に対する追認も、契約の相手方に対して追認したことを対抗できないとするものの、無権代理人に対する追認も有効とされる。
そこで、無権代理人から、無権代理行為により得られた売買代金の一部を本人が受領することは、本人が無権代理行為につき、契約の効果を自己に帰属させる意思が伺えることから、黙示の追認をしたものと思われる。
したがって、アの肢で、本人Bが、無権代理人Aから、無権代理行為であるAC間の売買契約の結果得られた売買代金の一部を受領しているので、黙示の追認があったものとされ、無権代理行為を追認したものとみなされるとするアの肢は誤りである。



イ 誤り

イの肢では、無権代理行為の相手方Cが本人Bに対して、売買契約を取り消す旨の意思表示をしている。
この取り消しは、民法115条に基づくものであるが、かかる取り消しは、いわゆる撤回の意味と解されているので、取り消しがなされた場合、無権代理行為はなかったことになる。
その結果、AC間の売買契約という無権代理行為は存在しなかったことになるので、Cは無権代理人の責任(117条)をAに対して追及することができなくなる。
この点、117条の要件として「無権代理行為が取り消しされていないこと」という要件は存在しないが、同条の責任は無権代理行為により損害を被った相手方の保護を図る規定であるから、無権代理行為を撤回した以上、相手方に損害は生じていないと考えられるので、117条が適用されるためには、無権代理行為が115条により取り消しされていないことを要するものと解する。
したがって、無権代理人の責任を追及できるとするイの肢は、誤りである。



ウ 誤り

ウの肢で、CはAに対し、民法117条に基づく無権代理人の責任を追及している。
この場合、相手方Aは、表見代理が成立することを主張して117条の責任を免れることができるか。
この点、同条には、そのような免責を認める規定はない。
そして、同条は、無権代理人の責任を認めることで、契約の相手方を保護することを目的とするものであって、無権代理人の責任を軽減する趣旨は含まれないと解される。とすると、117条により表見代理を主張して無権代理人の責任免れるということは、同条の目的からは導くことはできない。また、表見代理と無権代理の重畳適用を肯定するほうが、より契約の相手方保護に資する。
したがって、無権代理人は、117条の責任を追及された場合、表見代理の成立を主張して、その責任を免れることはできない。
よって、責任を免れるとするウの肢は、誤りである。



エ 正しい

エの肢で、Cは、契約当時に、Aに代理権がないことを知っていた。
契約の相手方による取り消しについては、民法115条が定める。
この115条但書は「契約の時において代理権を有しないことを相手方が知っていたときは、この限りでない。」と規定する。
したがって、エのCには115条但書が適用されるので、その取り消しをすることができない。
よって、取り消しができないとするエの肢は正しい



オ 正しい

オで、Cは、Aに対し、無権代理人の責任として損害賠償を追及している(117条)。この117条に基づく損害賠償請求については、一般に履行利益の賠償を含むと解されている。
ここで、甲土地を転売することによって得られるはずであった利益は、有効な履行がなされた場合に得られる利益であるから、履行利益に含まれる。
よって、Cは、甲土地を転売することによって得られるはずであった利益に相当する額を請求できるので、オの肢は正しい。


   Lesson 17


(H15-6)

次の二つの事例に関する下記アからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし二つの事例の双方にあてはまるものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。

事例T Aは、Bの承諾を得ないで、Bのためにすることを示して、B所有の絵画をCに売却した。
事例U Aは、Bの承諾を得ないで、自己のものであるとして、B所有の絵画をCに売却した。

ア CがAの無権限について善意かつ無過失の場合、Cは、絵画を即時取得することができる。

イ BがCに対して追認をすると、Cは、売却時にさかのぼって絵画の所有権を取得することができる。

ウ BがAを相続した場合において、CがAの無権限について悪意のときは、Bは、絵画の引渡義務の履行を拒むことができる。

エ Aが絵画の所有権をCに移転することができなかった場合において、CがAの無権限について悪意のときは、Cは、Aに対し、売買契約の債務不履行に基づく損害賠償請求をすることはできない。

オ Aは、自分が無権限であることについて善意である場合において、絵画の所有権をCに移転することができないときは、Cとの売買契約を解除することができる。


1 アイ  2 アエ  3 イウ  4 ウオ  5 エオ












【解説】

T 当てはまらない
U 当てはまる

事例Tでは、AがBの承諾もなく、Bのためにすることなくして、B所有の絵画をCに売却しているので、いわゆる無権代理の事例である。
この無権代理の事案において、即時取得(192条)の適用は、契約の相手方に認められないとされている。
なぜなら、192条は「取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。」と規定し、有効な取引行為が存在することを前提とするところ、無権代理においては、有効な取引行為があるとはいえないので、192条の要件を具備しないからである。
平成16年改正前においては、「取引行為によって」という要件がなく、無権代理という法律行為の瑕疵についても192条によって治癒されるか否かが問題となっていた。その点につき、判例は、192条は、前主の無権利の瑕疵のみ治癒し、無権代理といった法律行為の瑕疵を治癒しないとした。 そこで、この判例を踏まえ、平成16年で、「取引行為によって」という要件が付加された。
これに対し、事例Uでは、Aは自己のものであるとして、B所有の絵画をCに売却しているので、前述のように、192条が適用される事例である。
したがって、アの即時取得することが問題となり、CがAの無権限について善意かつ無過失の場合には、即時取得できる。




T 当てはまる
U 当てはまる

事例Tは、無権代理の事案であるから、本人Bは、相手方Cに対して追認することができる(113条1項)。
この追認(113条1項)がなされると、無権代理人と契約の相手方の間でなされた契約の効果が本人に帰属することになる。かつ、追認には遡及効が認められている(116条)ので、売却時に遡って、Cは絵画の所有権を取得することになる。したがって、イの肢は事例Tについてあてはまる。
これに対し、事例Uでは、無権利者Aによる売却が問題となっているので、いわゆる他人物を売却した事案である。
他人物の売却については、民法560条以下で、契約の売主・買主の間の法律関係を規律するが、所有者との間との法律関係を規律したものはない。
そこで、他人物売買において、本人による追認が認められるのか、認められるとして、その効力をどのように解するのかが問題となるが、判例は、他人物売買の法律構造が無権代理と類似することから、無権代理における追認の規定を類推適用する。
したがって、イの肢において、事例Uの処理は、事例Tと同様となるので、イの肢は事例Uについてもあてはまる。




T 当てはまる
U 当てはまる

事例Tは、無権代理人の地位を本人が相続した場合に該当する。
この場合、本人には、無権代理人の地位と本人の地位が併存するというのが判例の立場である。したがって、本人は本人の地位に基づいて、追認を拒絶できる。
そして、契約の相手方はAの無権限であることにつき悪意であるから、民法117条2項前段が適用され、無権代理人の責任としてその履行請求(117条1項)をすることもできない。
以上から、Bは、絵画の引渡義務の履行を拒むことができるので、ウの肢は事例Tについて当てはまる。
これに対し、事例Uは、他人物売買の売主たる地位を所有権者が相続した場合に該当する。この場合の処理につき、民法に格別の規定がないが、判例は、権利者は相続前と同様に権利の移転について諾否の自由を有しており、その諾否が信義則に反すると認められるような特段の事情がない限り、当該売買契約の売主としての履行義務を拒絶できるとする。
この法律構成を具体的にどのように解するのか不明であるが、信義則による解決を図っていることから、民法の具体的条文の適用結果として、他人物売主の地位と所有者としての地位は併存することを認め、他人物売主としての地位に基づく財産権移転義務の履行請求に対し、信義則という一般条項による具体的解決を図ったものと考えられる。
以上から、Uの事例も、ウの肢はあてはまる。




T 当てはまる
U 当てはまらない

事例Tは前述のように、無権代理の事案である。この無権代理の場合、契約の効果は誰にも帰属しないのが原則である。
すなわち、本人に効果帰属しないからといって、無権代理人に契約の効果が帰属するわけではない。
したがって、無権代理の場合には、無権代理人は契約上の債務を負担してるわけではないので、債務不履行に基づく損害賠償請求もなしえない。
なお、民法117条1項は無権代理人に対して契約上の責任すら請求できない相手方保護の見地から、無権代理人に法定の責任を認めたものである。したがって、117条1項は「履行」と規定するが、かかる履行を請求できるのは、無権代理人に契約の効果が帰属するからではなく、あくまで法定で認められた責任であることに注意しなければならない。
これに対し、事例Uにおいては、560条の他人物売買契約に該当する。したがって、同条により、売主は、買主に対して財産権移転義務を負っているので、買主Cは売主Aに対して売買契約の債務不履行責任を追及できる。
よって、ウの肢は、事例Uについて当てはまる。




T 当てはまらない
U 当てはまらない

事例Tについては、無権代理である。この無権代理においては、契約の効果は本人に効果帰属しない以上、誰にも効果帰属していないことになる。
したがって、無権代理人にも契約の効果は帰属せず、売買契約を解除するための要件たる契約当事者たる地位を無権代理人は有しないので、契約の解除をすることはできない。よって、事例Tについては、当てはまらない。
これに対して、他人物売買においては、他人物売主は、562条により解除権が認められている。
562条1項は「売主が契約の時においてその売却した権利が自己に属しないことを知らなかった場合において、その権利を取得して買主に移転することができないときは、売主は、損害を賠償して、契約の解除をすることができる。」として、同2項は「前項の場合において、買主が契約の時においてその買い受けた権利が売主に属しないことを知っていたときは、売主は、買主に対し、単にその売却した権利を移転することができない旨を通知して、契約の解除をすることができる。」と規定する。
よって、売主は損害を賠償すれば、契約を解除できるにすぎず、損害を賠償していないオの肢においては、解除をすることができない。


   Lesson 18


(S57-2)

未成年者に関する次の記述中、正しいものはどれか。

1 20歳未満の者がいったん婚姻しても、その後離婚したときは、婚姻により成年に達したものとみなされた効果が将来に向かって消滅する。

2 未成年者は、他人の代理人となることができない。

3 未成年者に法定代理人がない間は、これに対して消滅時効が完成することはない。

4 未成年者が法定代理人の同意を得ないでした法律行為を取り消すには、法定代理人の同意を要する。

5 未成年者が負担付きの遺贈の放棄をするには、法定代理人の同意を要しない。















【解説】
1 誤り

未成年者が婚姻をした場合、民法753条により成年擬制がなされる。
民法753条は「未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす。」と規定する。
したがって、婚姻をした場合、未成年者は、成年者として扱われる。
では、その後離婚した場合にどうなるか。この点について、民法の条文はない。
そこで一般に解釈に委ねられているが、婚姻による成年擬制の効果は、離婚によって消滅しないと解されている。
よって、1の肢は誤りである。



2 誤り

代理人の資格について、民法102条が定める。
民法102条は「代理人は、行為能力者であることを要しない。」と規定する。
したがって、未成年者であっても、他人の代理人となることができる。
よって、2の肢は誤りである。



3 正しい

未成年者に法定代理人がいない場合、民法158条により時効の停止が生ずるとされる。
民法158条によれば「時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。」と規定する。
したがって、消滅時効が完成することはないので、3の肢は正しい。



4 誤り

未成年者が法定代理人の同意を得ずになした法律行為は取消すことができる。
この取消権者について、民法120条1項が定める。
民法120条1項は「能力の制限に因りて取消し得べき行為は制限能力者又は其代理人、承継人若くは同意を為すことを得る者に限り之を取消すことを得」と規定する。
よって、この民法120条1項によると、制限能力者も取消権者として定められているので、未成年者は単独で取消権を行使できる。
したがって、取り消しについて法定代理人の同意を要するとする4の肢は誤りである。



5 誤り

未成年者の法律行為について、法定代理人の同意を要しない場合とは民法5条1項但書に該当する場合である。
民法5条1項は「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。」と規定する。
負担付きの遺贈の放棄は、負担という義務を免れるものの、遺贈による権利の取得ができなくなることから、民法5条1項但書に該当するとはいえない。
よって、5の肢は誤りである。


   Lesson 19


(S60-1)

制限能力者に関する次の記述中、誤っているものはどれか。

1 未成年者が、債務を免除する旨の債権者からの申込みを承諾するには、法定代理人の同意を得ることを要しない。

2 成年被後見人の行為(日用品の購入その他日常生活に関するものを除く)は、成年後見人の同意を得てしたときは、取り消すことができない。

3 後見開始の審判は、本人も請求することができる。

4 被保佐人が相続を承認し、又はこれを放棄するには、保佐人の同意を得ることを要する。

5 被保佐人には、常に保佐人が付される。















【解説】
1 正しい

未成年者が法律行為を行う場合、法定代理人の同意を得ることが必要とされる(民法5条1項)。
この民法5条1項は、「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。」と規定する。
そこで、民法5条1項但書に該当すれば、未成年者は法定代理人の同意を得ずに法律行為を為すことができる。
本件では、債権者から債務を免除する旨の申込みがなされ、それに対する承諾が問題となっているが、債務の免除は、単に義務を免れるものであるから、民法5条1項但書に該当する。
よって、未成年者は、法定代理人の同意なく、承諾をすることができる。
したがって、肢1は正しい。



2 誤り

成年被後見人のなした法律行為の効果について定めた規定は民法9条である。
この民法9条によれば、「成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。」とされる。したがって、成年被後見人の行為については、未成年者の場合と異なり、法定代理人の同意の有無を問わず、取消すことができる。
これは、成年被後見人の場合、事理を弁識する能力を欠くことから、同意を与えたとしても同意どおりに行為を行うとはいえないから、法定代理人の同意を有無を問わないものとしたと解されている。
以上から、成年被後見人の行った法律行為は、成年後見人の同意を得ても取消すことができるので、2の肢は誤りである。



3 正しい

後見開始の審判について定めているのは、民法7条である。
民法7条は、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。」と規定する。
したがって、本人も民法7条によって、後見開始の審判の請求権者として定められているので、3の肢は正しい。



4 正しい

被保佐人が保佐人の同意を得ることを要する場合とは、民法13条1項各号に該当する場合である。
この民法13条1項6号では、「相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。」と定めているので、保佐人の同意を要する。
よって、4の肢は正しい。



5 正しい

民法12条は、「保佐開始の審判を受けた者は、被保佐人とし、これに保佐人を付する。」と規定する。
したがって、被保佐人には、常に保佐人が付されるので、5の肢は正しい。


   Lesson 20


(S62-2)

甲は、乙に対し自己所有のカメラの質入れに関する代理権を授与したところ、乙は、丙に対しこのカメラを甲の代理人として売却した。この場合に関する次の記述中、誤っているものはどれか。

1 乙がカメラを現実に所持していたとしても、丙は、乙に売却権限があると信ずべき正当の理由を有するとは限らない。

2 丙が、甲に対し相当の期間を定めてその期間内に追認するかどうかを催告し、これに対して、甲が追認を拒絶したとしても、丙は、表見代理の成立を主張することができる。

3 甲は、丙の催告に基づき乙の無権代理行為を追認したときは、乙に対し、その受け取った売却代金の引渡しを請求することができるが、これとは別に損害賠償の請求をすることはできない。

4 丙が、乙に代理権のないことを過失により知らなかったため、乙に対し代金を支払ったときは、丙は、甲の追認がない限り、契約を取り消して代金の返還請求をすることができる。

5 丙は、乙に対し無権代理人であることを理由に損害賠償の請求をしたときは、もはや、乙に対し履行の請求をすることができない。















【解説】
1 正しい

本問で、乙は、甲の代理人として、丙に対してカメラを売却している。しかし、乙はカメラの質入の代理権しか有しないので、当該行為は越権代理として無権代理に該当し、民法110条の表見代理の成立が問題となる。
したがって、1で丙が乙に売却権限があると信ずべき正当な理由の内容は、厳密にいうと、甲所有のカメラにつき売却する代理権限があると信ずべき正当な理由ということになる。
ここで、乙がカメラを現実に所持しているという事実は、民法上乙に「占有」があることを意味し、乙は占有者ということになる。
そして、民法186条1項は「占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ公然と占有をするものと推定する。」と規定するので、乙は占有者として、186条列挙事由について、推定される。
しかし、このような推定を受けることによっても、乙にカメラ売却の代理権があると信じるにつき正当な理由があることにはなるわけではない。
したがって、正当の理由を有するとは限らないとする1の肢は正しい。



2 正しい

2の肢では、表見代理の成立の主張ができるか否かが問題となっている。
この点、2の肢で、本人甲が追認拒絶の意思を表示しているものの、かかる追認拒絶の意思表示によって表見代理の成立が否定されるという条文はない。
表見代理は、無権代理につき、本人側に一定の帰責事由が存在する場合に、その代理権があるかの外観を信頼した者を保護する趣旨であるから、本人が追認を拒絶したいうことをもって、その成立が否定される実質的理由も存在しない。
よって、丙は、表見代理の主張をできるのであるから、2の肢は正しい。



3 誤り

3の肢で、甲は、丙の催告に基づき乙の無権代理行為を追認している。その結果、乙丙間の売買契約の効果が甲に帰属するので、甲は、乙に対し、その受け取った売却代金の引渡しを請求することができる。
また、乙は、甲との委任契約内容であるカメラの質入れという債務の本旨に従った履行をなしていないので、債務不履行(415条)が存在するので、債務不履行責任を負う。したがって、甲は、債務不履行を理由として乙に対し損害賠償を請求できる。
以上から3の肢で、別に損害賠償の請求をすることはできないとする点で誤りである。



4 正しい

民法115条は、無権代理行為の相手方に対し、契約の相手方が善意で、本人による追認がない間は、契約の取消ができると規定する。
4の肢で、甲は、乙に代理権のないことを過失により知らなかったので、善意であり、また、甲の追認もないので、丙は、民法115条に基づき契約を取り消すことができる。
そして、この取消の効果については、一般に撤回の意味とされている。
したがって、乙丙間の契約はなされなかったことになる。
となると、丙は、すでに乙に対して支払った代金については、法律上の原因を欠くとして、不当利得返還請求(民法703条)をなしうる。
よって、返還請求をなしうるとする4の肢は正しい。



5 正しい

丙は、民法117条1項に基づき、乙に対して、無権代理人であることを理由として損害賠償の請求をなしうる。
この損害賠償請求権では、履行利益の賠償をすることができるとされており、履行がなされたならば得られたであろう利益の賠償をなしうる。
とすると、かかる損害賠償請求をした場合には、もはや履行がなされないことを損害として賠償するものであるから、さらなる履行を請求することはできないと解すべきである。
よって、もはや乙に対して履行の請求をすることができないとする5の肢は正しい。


   Lesson 21


(S62-3)

成年被後見人甲は、単独で、その所有する建物を代金400万円で乙に売却し、この代金のうち、30万円を丙に対する債務の返済をあてた上、200万円を遊興費に、120万円を生活費にそれぞれ使い、残りの50万円を所持している。この場合において、甲の成年後見人が乙に対し建物の売買契約を取り消したときに、甲が乙に返還すべき金額は、次のうちどれか。

1 400万円

2 280万円

3 200万円

4 80万円

5 50万円















【解説】
1 誤り

成年被後見人がなした法律行為を取り消した場合、成年被後見人が負う返還請求の根拠は、民法121条但書である。
民法121条は「取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。」と規定する。
したがって、成年被後見人は「その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。」ことになる。
そこで本件で、「現に利益を受けている限度」はどの範囲か検討すると、甲は、代金400万円を受け取っている。そのうち30万円を債務の返済にあて、200万円を遊興費に使用し、120万円は生活費に充て、50万円を所持している。
そこでまず、50万円は現存しているのであるから、これについては返還しなければならない。
そして、30万円の債務の返済については、債務の返済によって、甲は自分の財産からの支出を免れているといえるので、これについても「現に利益を受けている限度」に含まれる。
また、生活費120万円についても、これにより甲は自分の財産からの支出を免れているので、「現に利益を受けている限度」に含まれる。
しかし、200万円の遊興費については、そもそも、甲が有していた財産からの支出を免れているとはいえないので、「現に利益を受けている限度」に含まれない。
以上から、200万円については「現に利益を受けている限度」といえ、甲はこれを返還しなければならない。
よって、正解は3であり、1は誤りである。



2 誤り

1の解説参照



3 正しい

1の解説参照



4 誤り

1の解説参照



5 誤り

1の解説参照


   Lesson 22


(S63-3)

被保佐人に関する次の記述中、正しいものはどれか。

1 家庭裁判所は、検察官から保佐開始の審判の請求があった場合には、必ずその審判をしなければならないが、検察官以外の者から保佐開始の審判の請求があった場合には、その裁量により審判の要否を判定する。

2 被保佐人は、保佐人の同意またはこれに代わる家庭裁判所の許可を得ないで自己の所有する自動車を他に売却した場合であっても、その自動車が善意の第三者に転売された後は、自己が締結した売買契約を取り消すことができない。

3 銀行との間において金銭消費貸借契約を締結した被保佐人が、その銀行から2カ月以内に保佐人の追認を得べき旨の催告を受けたにもかかわらず、何らの通知も発しなかったときは、その契約は、追認されたものとみなされる。

4 被保佐人が銀行から金銭を借り受けた場合において、その債務を保証した者は、その当時債務者が保佐開始の審判を受けていることを知っていたかどうかにかかわらず、被保佐人が締結した金銭消費貸借契約を取り消すことができない。

5 被保佐人が、第三者が銀行から融資を受けるにあたり、自己が被保佐人であることを告げないでその債務を保証したときは、当該保証契約を取り消すことができない。















【解説】
1 誤り

民法11条は、保佐開始の審判について定める。
そして民法11条は「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、保佐開始の審判をすることができる。ただし、第七条に規定する原因がある者については、この限りでない。」と規定する。
これによれば保佐開始の審判請求について、検察官以外が行った場合と、検察官が行った場合とで、保佐開始の審判の要件は同一である。
とすると、1の肢は、検察官が行った場合と、検察官以外の者が行った場合とで異なる扱いとするので、1の肢は誤りである。



2 誤り

民法13条1項は「被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。」と規定する。
そして民法13条1項3号は「不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。」と規定しているので、被保佐人が、自己の所有する自動車を他に売却する行為は民法13条1項3号に該当し、保佐人の同意を要する。
また、民法13条3項は「保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。」と規定する。
よって、2の肢では、保佐人の同意に代わる家庭裁判所の許可もなされていないことになる。
そして民法13条4項は「保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。」と規定する。
したがって、肢2では保佐人の同意を欠き、また同意に代わる許可もないので、被保佐人は、その自動車の売却を取消すことができる。
なお、肢2においては、自動車が善意の第三者に転売されている。しかし、このような第三者への売却の有無は、取消権の消滅に影響するとの条文がないので、被保佐人は、なお取消権を行使できる。
以上から、2の肢は、被保佐人が取消すことができないとする点で、誤りである。



3 誤り

肢3において、被保佐人は、銀行と金銭消費貸借契約を締結している。この契約は民法13条1項2号の「借財又は保証をすること。」に該当する。
したがって、被保佐人は、右契約にあたって保佐人の同意を得ることを要し、その同意を欠く場合には、13条4項により取消権を生ずる。
そして、本件では、銀行から被保佐人に対して、保佐人の追認を得べき旨の催告がなされている。
この催告は、民法20条4項に基づく催告と考える。
民法20条4項は「制限行為能力者の相手方は、被保佐人又は第十七条第一項の審判を受けた被補助人に対しては、第一項の期間内にその保佐人又は補助人の追認を得るべき旨の催告をすることができる。この場合において、その被保佐人又は被補助人がその期間内にその追認を得た旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす。」と規定する。
したがって、その期間内に被保佐人が何らの通知をしなかった3の肢において、その契約は取り消したものとみなされる。
ところが、3の肢は、追認されたものとみなすとするので、誤りである。



4 正しい

被保佐人が銀行から借り受けた場合、その借り受け行為は民法13条1項2号に該当し、保佐人の同意を得ていない場合、民法13条4項により取消権を生ずる。
この取消権を行使できる取消権者について、民法は民法120条1項に規定を設けている。
民法120条1項は「行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。」と規定する。
したがって、その債務につき保証した者は、民法120条1項に該当しないので、取消権を行使できない。
よって、被保佐人が締結した金銭消費貸借契約を取り消すことができないとする4の肢は正しい。



5 誤り

被保佐人が第三者が銀行から融資を受けるにあたり、その債務を保証することは民法13条1項2号に該当し、保佐人の同意を得ていない場合、民法13条4項に該当し、その保証を取消すことができる。
したがって、5の肢においても、被保佐人は、その債務保証を取消すことができる。
もっとも、5において、被保佐人は自己が被保佐人であることを銀行に告げないでその債務を保証している。この点について、民法21条の適用が問題となりうる。
しかし、民法21条が適用されるためには、「行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いた」ことが必要であるところ、5で被保佐人は、自己が被保佐人であることを告げないというにとどまる。
よって、このような場合には「詐術を用いた」とはいえず、民法21条は5の肢に適用されない。
以上から、被保佐人は、原則どおり取消権を行使できるので、5の肢は誤りである。