Lesson 8
(S63-1) 未成年者の行為能力に関する次の記述中、誤っているものはどれか。 1 未成年の被保佐人が婚姻をしても、被保佐人としての行為能力の制限は解除されない。 2 就学前の幼児が、他の者から贈与の申込みを受けてこれを承諾しても、その承諾は無効である。 3 未成年者の法定代理人がその未成年者の営業を許可するについては、営業の種類まで特定する必要はない。 4 未成年者がする取引についての法定代理人の同意は、未成年者自身に対してではなく、未成年者と取引をする相手方に対してなされても有効である。 5 未成年者がした法律行為の取消しは、未成年者が単独ですることができる。 【解説】 1 正しい 未成年者が婚姻をした場合、民法753条により成年擬制が生ずる。 民法753条は「未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす。」と規定する。 したがって、未成年者が婚姻をした場合には、成年者としてみなされるので、婚姻後未成年者という地位に基づく規定は適用されない。 しかし、民法753条は、「成年に達したものとみなす。」と規定するのみで、制限能力者でなくなるわけではない。 したがって、未成年者以外の制限能力者である被保佐人である場合には、被保佐人たる地位は婚姻後にも継続する以上、被保佐人の規定の適用はある。よって、婚姻後も、被保佐人としての行為能力の制限は続き、解除されないといえる。 以上から、1の肢は正しい。 2 正しい 2においては、就学前の幼児が、贈与の申込みを受けてこれを承諾した場合、この承諾は無効となるか否かが問題となっている。 ここで問題となっている承諾は、贈与という契約の申込みに対する承諾であるから、この承諾は意思表示としての有効要件を具備する必要がある。 したがって、この承諾が無効となるか否かは、意思表示として無効か否かを検討すればよい。 そこで、これを2について検討するに、承諾の意思表示が就学前の幼児によってなされている。 このような就学前の幼児については、一般に意思能力を欠くとされている。 そして、この意思能力を欠く意思表示の効果について、条文はないものの、無効と解されている。 したがって、就学前の幼児がなした承諾という意思表示は、意思能力を欠くので、無効となる。よって、このような幼児のなした承諾は無効であるとする2の肢は正しい。 3 誤り 3の肢で問題となっている法定代理人による営業の許可は、民法6条1項に基づくものである。 この民法6条1項は「一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。」と規定する。 この「一種又は数種の営業」に関しては、社会通念上一個とみられる営業の一個または数個を意味し、一個の営業の一部を許したり、すべての営業を許すことはできないと一般に解されている。 したがって、その許可にあたっては、社会通念上一個とみられる営業の一個または数個を確定するため、営業の種類まで特定することまで要求される。 よって、このような営業の種類まで特定する必要はないとする3の肢は誤りである。 4 正しい 未成年者のする取引に対する法定代理人の同意については、民法5条1項が定める。民法5条1項は「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。」と規定する。 この民法5条1項は、その法定代理人が行う同意が具体的にどのようになされるのかについて定めていない。 よって、法定代理人が未成年者取引の相手方に同意をしたとしても民法の条文に抵触するわけでもない。 また、このような取引の相手方に対する同意を認めても具体的な結論の不都合性も生じない。 したがって、法定代理人が取引の相手方に対してなした同意も有効である。 よって、4の肢は正しい。 5 正しい 未成年者がした法律行為の取消しは、民法120条1項に基づく取消である。 民法120条1項は「行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。」と規定する。 この民法120条1項では、制限能力者であれば、単独で取消をできることとなる。 よって、この5の肢は正しい。 |
(H2-1) 社団法人の定款に次のアからオまでの内容の定めをした。このうちその効力 が認められないものを選んだ場合、その組合せとして正しいものは、後記1か ら5までのうちどれか。 ア 各社員の表決権に差を設けること。 イ 理事が代理権を委任することはできないものとすること。 ウ 定款の変更は、理事全員の決議によりすることができるものとすること。 エ 残余財産の帰属権利者を具体的に指定するのではなく、指定する方法のみを定めること。 オ 理事がその職務を行うにつき不法行為を行った場合でも、法人に過失があったときでなければ、法人は責任を負わないものとすること。 1 アウオ 2 アイエ 3 イウエ 4 イオ 5 ウオ 【解説】 ア 正しい 社団法人の定款は、社団の根本規則である。この根本規則である定款は構成員の合意によりいかなる内容をも定めることができるのが原則である(定款自治の原則)が、強行法規に反する内容を定めることができない。 したがって、本問題のように、定款の記載の効力が認められない場合とは、強行法規に反する場合であるので、それぞれ強行法規に反するか否かを検討する。 アの肢は各社員の表決権に差を設けるという定款の記載の効力が問題となっているが、各社員の表決権については民法65条に定めがある。 その民法65条1項において、まず「各社員の表決権は、平等とする。」とするが、同条3項で「前二項の規定は、定款に別段の定めがある場合には、適用しない。」と規定する。 したがって、各社員の表決権については、定款自治が認められ、差を設けることができる。 よって、各社員の表決権に差を設けることは、強行法規に反せず、効力を生ずる。 イ 正しい イの肢においても、アの肢と同様に、強行法規に反するか否かでその記載の効力が認められるか否かが決まる。 この点、理事が代理権を委任することについて、民法55条が規定を設けている。 民法55条は「理事は、定款、寄附行為又は総会の決議によって禁止されていないときに限り、特定の行為の代理を他人に委任することができる。」と規定する。 このように理事の代理権委任行為については、法律上定款自治に委ねられ、禁止するかしないかにつき、定款で定めることが認められている。 以上から、理事が代理権を委任することについては、強行法規に反せず、その記載の効力は認められる。 ウ 誤り 定款の変更の要件を、理事全員の決議によるとすることは強行法規に反するか否かが問題となる。 この点、定款の変更については、民法38条1項が定める。 民法38条1項は「定款は、総社員の四分の三以上の同意があるときに限り、変更することができる。ただし、定款に別段の定めがあるときは、この限りでない。」と規定する。 このように、一見民法38条1項但書で、本文と異なる変更要件を定款で定めることができるように思われる。 しかし、社団法人の根本規則である定款の変更は、最高意思決定機関である社員総会の専権決議事項とされ、理事等の他の機関の決議により変更することはできないと解されている。 したがって、民法38条1項但書で別段の定めが可能とあるのも、決議の要件につき定足数を変更することが許されるものと一般に解されている。 よって、ウの肢の定款の内容は強行法規に反するので許されず、その効力は認められない。 以上からわかるように、強行法規に反するか否かは明文規定のみからは判断できないという側面があるので注意。 エ 正しい 残余財産の帰属権利者の指定については、民法72条が定める。 民法72条1項は「解散した法人の財産は、定款又は寄附行為で指定した者に帰属する。」と規定する。 よって、民法13条第3項から、エは正しい。 そして、同条2項は「定款又は寄附行為で権利の帰属すべき者を指定せず、又はその者を指定する方法を定めなかったときは、理事は、主務官庁の許可を得て、その法人の目的に類似する目的のために、その財産を処分することができる。ただし、社団法人にあっては、総会の決議を経なければならない。」と規定する。 この二つの条文から、定款をもって、残余財産の帰属権利者を直接定めずとも、間接的に帰属権利者の指定方法を定めることが認められていると解される。 よって、残余財産の帰属権利者の指定の定款の記載は、強行法規に反せず、その効力が認められる。 オ 誤り 理事が不法行為を行った場合について、民法44条1項が定める。 民法44条1項は「法人は、理事その他の代理人がその職務を行うについて他人に加えた損害を賠償する責任を負う。」と規定する。 とすると、オの肢は、法人に過失があった場合のみ、法人が責任を負うとする点で、民法44条1項の要件を加重する方向で変更するものである。 この点、民法44条は理事が他人に損害を与えた場合の、被害者保護の見地から法人に賠償責任を認めたものであるから、公の秩序に関する規定といえ、強行法規である。 したがって、オの肢は、強行法規に反するので、その定款記載の効力は認められない。 |
(H3-1) 甲からコピー機の賃借に関する代理権を与えられた乙は、その代理権限の範 囲を超えて、甲の代理人として丙との間でコピー機を買い受ける旨の契約を締 結した。この事例に関する次の記述中、誤っているものはどれか。 1 丙が乙に売買契約締結の代理権があると信ずべき正当の理由があれば、甲は丙からの売買代金の請求を拒むことができない。 2 丙が乙に売買契約締結の代理権がないことを知っていたときは、丙は、代理権がないことを理由として売買契約を取り消すことができない。 3 丙が乙に売買契約締結の代理権がないことを知っていたときは、丙は、甲に対して売買契約を追認するかどうかを確答するように催告することができ ない。 4 丙が乙に売買契約締結の代理権がないことを知っていた場合において、甲が売買契約の追認を拒絶したときは、丙は、甲、乙のいずれに対しても売買代金の支払を請求することができない。 5 乙が未成年者であるときは、丙がその事実を知っていたか否かにかかわらず、丙は、乙に対して履行又は損害賠償を請求することができない。 【解説】 1 正しい 甲が丙からの売買代金の請求を拒めないということは、乙丙間のコピー機売買契約の効果が甲に帰属することを意味する。 本件で、乙はコピー機の賃借の代理権を授与されているものの、コピー機の売買契約を丙と締結しているので、この売買契約は越権代理として無権代理に該当し、本人に効果帰属しないのが原則である。もっとも、越権代理の場合には民法110条により表見代理が成立し、本人に効果帰属することが認められているので、本件丙につき110条の要件を具備するか問題となる。 民法110条は「前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。」と規定する。 本件で、代理人乙は、その権限であるコピー機の賃借という権限を越えて、コピー機の売買を行っているので、「代理人がその権限外の行為をした場合」といえる。そして、1の肢では、代理行為の相手方丙は、売買契約締結の代理権があると信じる正当な理由があるとされているので、「第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由がある」といえる。 したがって、本件では110条の要件を具備し、本人にコピー機売買契約の効果が帰属する結果、甲は丙からの売買代金の請求を拒めない。 2 正しい 2の肢では、丙は代理権がないことを理由として売買契約を取り消すことができるか否かが問題となっているが、契約の相手方による取消については民法115条が定める。 民法115条但書によると、契約の相手方が契約の時において代理権がないことを相手方が知っていた場合には、取消ができないとする。 本件で、丙は乙に売買契約締結の代理権がないことを知っていたというのであるから、丙には民法115条但書が適用され、売買契約の取消をすることができない。 よって、代理権がないことを理由として売買契約を取り消すことができないとする2の肢は正しい。 3 誤り 3の肢では、丙による本人に対する催告(114条)の可否が問題となっている。民法114条は「前条の場合において、相手方は、本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、本人がその期間内に確答をしないときには、追認を拒絶したものとみなす。」とする。 この114条の条文によると、本人に対する催告の可否につき、契約の相手方の主観は問題とされていない。 したがって、丙が乙に売買契約締結の代理権がないことを知っていた場合であっても、丙は甲に対して追認するかどうかを確答するように催告することができるので、これをできないとする3の肢は誤りである。 4 正しい の肢では、本人甲が売買契約の追認を拒絶している。この追認拒絶により乙丙間の売買契約の効果は本人に効果帰属せず、無権代理であることが確定する。したがって、本人甲に対して売買代金の支払を請求するためには、表見代理が成立することが必要であるが、前述1の肢で検討したように、表見代理(110条)が成立するためには、相手方が代理権があると信じるにつき正当な理由が必要であるところ、丙は乙に売買契約締結の代理権がないことを知っていたのであるから、110条による本人への効果帰属は認められない。 よって、丙は本人甲に対して、売買代金の支払を請求することはできない。 また、乙に対して無権代理人の責任を追及することが考えられるが、契約の相手方が代理権を有しないことを知っていたときには、117条2項により、責任追及できないとされているところ、丙は乙が売買契約締結の代理権がないことを知っているので、117条に基づく売買代金の支払を丙は乙に対して請求することもできない。 以上から、丙は、甲、乙のいずれに対しても売買代金の支払を請求することができないので、4の肢は正しい。 5 正しい 5の肢では、乙が未成年であるという事情が存在する。この場合、丙は無権代理人乙に対して履行又は損害賠償を請求しうるか。 この丙による履行又は損害賠償請求の根拠は、いわゆる無権代理人の責任を定めた民法117条である。 この民法117条2項は、無権代理人の責任を追及できない場合として「他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。」と規定する。5の肢で、乙は未成年者であるから、民法117条に基づく無権代理人の責任を追及しえない。 よって、丙は、乙に対して履行又は損害賠償を請求することができないので、5の肢は正しい。 |
(H6-4) 代理に関する次の記述中、判例の趣旨に照らし、正しいものはいくつあるか。 ア 代理人が、自己又は第三者の利益を図るため代理権の範囲内の行為をした場合には、相手方が代理人のそのような意図を知らず、かつ、知らなかったことについて重大な過失がなかったときに限り、本人は、その代理人の行為につき責任を負う。 イ 無権代理人は、相手方が無権代理人に対して民法第117条の規定によりした履行請求に対して、表見代理が成立することを主張立証して自己の責任を免れることはできない。 ウ 妻が夫の代理人として第三者とした法律行為は、妻が夫から特に代理権を与えられておらず、かつ、その法律行為が日常の家事に関するものでない場合であっても、第三者においてその行為がその夫婦の日常の家事に関する法律行為に属すると信ずるにつき正当の理由があるときは、夫に対して効力を生ずる。 エ 代理人の代理権が消滅した後にその者がした無権代理行為につき、民法第112条の表見代理が成立するためには、代理権が消滅する前に、その代理人が当該本人を代理して相手方と取引行為をしたことがあることを要する。 オ 本人が無権代理人を相続した場合であっても、無権代理行為の追認を拒絶したときは、本人は、無権代理人が相手方に対して負うべき履行又は損害賠償の債務を相続することはない。 1 1個 2 2個 3 3個 4 4個 5 5個 【解説】 ア 誤り アの肢で、代理人は、自己又は第三者の利益を図るために代理権の範囲内の行為をしている。この行為は、いわゆる代理権の濫用行為にあたる。 このような代理権の濫用があった場合、判例は、93条但書を類推適用して、代理行為の有効性を決する。 すなわち、相手方が代理人の濫用の意図を知り、または注意をすれば知ることができた場合には、民法93条但書類推により代理行為は無効になるとする。 肢アでは、相手方が代理人のそのような意図を知らなかったことについて重大な過失がなかったときに限り、本人はその代理人の行為につき責任を負う、すなわち、有効となるとするので、相手方に過失があった場合でも有効となる。この点、相手方に過失があった場合にも無効とする判例と異なるので、肢アは、判例の趣旨に照らし、誤りである。 イ 正しい イの肢では、無権代理の責任追及(民法117条)に対し、無権代理人は、表見代理が成立することを主張立証して自己の責任を免れることができない、とする。この表見代理が成立した場合に自己の責任を免れることができるというのは、民法117条に基づく無権代理人の責任発生につき「表見代理が成立しないこと」を要件とすることを意味する。 しかし、民法117条の規定には、そのような要件は定められておらず訴訟上問題となった。 この点、判例は、表見代理の成立を主張立証して、無権代理人の責任(民法117)条を免れることができないとした。判例は条文の文言を重視したのと同時に、民法117条が、無権代理行為の相手方保護にあることから、表見代理責任と無権代理責任の重畳適用を認めるべきとした。 したがって、イの肢は、まさに判例の趣旨に照らし、正しい。 ウ 正しい ウの肢では、妻が夫の代理人として第三者と法律行為をしている。 そして、妻は夫から特に代理権を授与されていないので、任意代理は成立しない。したがって、任意代理を根拠として、夫に対し効力を生じることはない。 また、妻という身分を有することで、夫を代理する法定代理の成立についても、民法761条が日常家事債務につき連帯責任を定めていることから、前提として、妻は日常家事に関して夫を代理する法定代理権を有すると解されているが、ウの肢では、その法律行為が日常の家事に関するものではない場合であるので、民法761条に基づく法定代理によっても、夫に対し効力を生じることはない。 以上より、妻の代理行為については無権代理となるが、無権代理の場合の表見代理によって、本人である夫に対し効力を生じないか。 この点、判例は、民法110条の趣旨を類推し、第三者においてその行為がその夫婦の日常の家事に関する法律行為に属するにつき正当の理由があるときは、本人に対して効力を生ずるとした。 よって、ウの肢では、前述の判例の趣旨に合致するものとして、正しい。 なお、判例の趣旨類推という手法については、他ではない処理であり、判例の真意は不明であるが、民法761条に基づく法定代理権を110条の基本代理権として110条の表見代理を直接肯定する処理に対して、消極的な態度をとった判例であるという評価はできると思う。 エ 誤り 民法112条は「代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。」と規定する。 他方エの肢は、112条の適用要件として、代理権が消滅する前に、その代理人が当該本人を代理して相手方と取引行為をしたことがあることを要するとしている。これは、条文の文言に規定がなされていない要件を加重するものであるが、112条を表見代理の規定として位置づけた場合、同じ表見代理に関する109条、110条と異なり、代理権が消滅した場合に限定して規定していることから、代理人として以前に代理行為をしたことを必要とし、かつ、以前有していたが今は消滅した代理権を信頼した者のみを保護する趣旨から、相手方としても、その代理人と代理行為をしたものに限定するため、エの肢のような要件を加重すべきとの見解が主張されていた。 しかし、判例は、112条の適用要件として、エの肢の要件を必要としないとした。エの肢の事情は、相手方の善意・無過失の要件を検討する際の事情にすぎないとした。 したがって、エの肢は、判例の趣旨に合致せず、誤りである。 オ 誤り オの肢は、本人が無権代理人を相続した場合で、無権代理の追認を拒絶した場合、本人は、無権代理人の責任(117条)をも相続しないとする。 しかし、判例は、本人の地位と無権代理人の地位は併存することを前提にして、本人が無権代理人を相続した場合に、本人の地位に基づく追認拒絶を肯定しているのであり、無権代理人の地位を相続することを否定するものではない。 したがって、本人が追認拒絶をしたとしても、無権代理人の責任は消滅しない以上、本人は無権代理人の地位を相続したことに基づく、無権代理人の責任を負担する。 したがって、オの肢は、無権代理人が相手方に対して負うべき履行又は損害賠償の債務を相続することはないとする点で、誤りである。 |
(H7-2) Aの父Bが旅行中船舶事故に巻き込まれたまま生死不明となった場合に、A のとりうる措置に関する次の記述のうち、正しいものの組合せは、後記1から 5までのうちどれか。 ア Bが事故に遭遇してから1年が経過すれば、Aは、家庭裁判所に対し、Bについての失踪宣告を請求することができる。 イ Bが事故に遭遇してから1年が経過していなくても、Aは、家庭裁判所に対し、Bのために不在者の財産管理人の選任を請求することができる。 ウ Bが事故に遭遇して生死不明になったことを理由として、Aの請求により失踪宣告がされた場合には、Bは、事故から1年を経過した時に死亡したものとみなされる。 エ Bが事故に遭遇する前に、既にBのために財産管理人が選任されている場合には、Aは、Bにつき失踪宣告の請求をすることができない。 オ Bが事故に遭遇して生死不明になったことを理由として、Bについて失踪宣告がされた後、Bが事故後も生存していたことが証明された場合には、Aは、失踪宣告によりAが相続したBの財産を善意で取得した者がいるときを除いて、失踪宣告の取消しの請求をすることができる。 1 アイ 2 アオ 3 イウ 4 ウエ 5 エオ 【解説】 ア 正しい 失踪宣告の請求の可否については、民法30条が定める。 そして、本件のような旅行中の船舶事故に巻き込まれたような場合は、いわゆる特別失踪に該当し、民法30条2項に定めがある。 民法30条2項は「戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。」と規定する。 したがって、本件では、船舶事故に巻き込まれてから一年間生死不明の状態が続いているので、「危難が去った後一年間明らかでないとき」といえる。 そして、AはBの子供であるから、失踪宣告の請求権たる「利害関係人」(民法30条1項)に該当するので、アの肢の請求は認められる。 以上から、アの肢は正しい。 イ 正しい イにおいては、不在者の財産管理人の選任請求の可否が問題となっている。 不在者の財産管理人の選任については、法25条1項の「その財産の管理について必要な処分」として選任できると解されている。 したがって、民法25条1項の要件を具備すれば、不在者の財産管理人の選任請求ができる。 民法25条1項は「従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。」と規定する。本件で、Bは事故により生死不明の状態になっているので、「従来の住所又は居所を去った者(「不在者」)」といえる。 そして、AはBの子供であるが、子供であるからといって、Bの財産管理権を有するというわけでもなく、ほかにBの財産管理人がいるわけではないので、「その財産の管理人(「管理人」)を置かなかったとき」という要件も具備するものと思われる。 また、アと同様、AはBの子供であるから、「利害関係人」という要件も具備する。以上から、法25条1項の要件を具備するので、不在者の財産管理人の選任を請求することができる。したがって、イの肢は正しい。 ウ 誤り 肢ウでは、Bについての失踪宣告のなされた場合の、死亡したものとみなされる時期が問題となっている。 失踪宣告の効果については、民法31条が規定している。 この民法31条は「前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。」と規定する。 したがって、特別失踪で、法30条2項が適用される本件では、危難の去りたるときである。船舶事故のときに死亡したとみなされる。よって、事故から1年を経過したときに死亡したものとみなすウの肢は誤りとなる。 エ 誤り エでは、既にBに対する財産管理人が選任されている場合に、Bに対する失踪宣告ができないということが述べられている。 しかし、失踪宣告の要件たる民法30条2項は、アで検討したように、不在者の財産管理人が選任されて「いない」ということを要件としていない。 また、失踪宣告の効果は民法31条に定めるように、「死亡みなし」であって、これは不在者の死亡を確定させることにより、その者の従来の住所を中心とする法律関係を確定させるための制度である。 このように、失踪宣告は失踪者を死亡させることによって得られる法律関係の確定であるのに対し、不在者の財産管理制度は、失踪者が生きていることを前提に財産を管理させる制度であって、両者の趣旨は異なる上に、互いに排斥しあう関係にもない。 そして、不在者の財産管理がなされていても、不在者が死亡したか不明な状況に陥った段階においては、死亡したことを前提に法律関係を確定する必要性が生ずるのであるから、不在者の財産管理がなされていても、失踪宣告をする実益があるとも言える。 以上から、不在者の財産管理人が選任されていても、失踪宣告はできるので、エの肢は誤りである。 オ 誤り 失踪宣告の取消の請求については民法32条1項が定める。 民法32条1項は「失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。」と規定する。 この民法32条1項において、オの肢にあるような、失踪宣告によりAが相続したBの財産を善意で取得した者がいることが、取消請求ができない要件とされているわけではない。 逆に、そのような善意の取得者がいる場合について、民法32条2項が規定を設けている。 その民法32条2項は「失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。」と規定している。 これは失踪宣告の取消がなされた上での、善意の第三取得者保護の規定と解される。 このような民法32条2項の規定にかんがみると、善意の第三取得者がいる場合でも、失踪宣告の取消自体は可能であると解されるので、そのような善意の取得者がいる場合、そもそも取消の請求ができないとするオの肢は誤りである。 |
(H6-4) Aは、何らの権限もないのに、Bの代理人と称して、Cとの間にB所有の不 動産を売り渡す契約を締結した。この場合におけるBの追認に関する次の記述 のうち、正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。 ア CがBに対して相当の期間内にAの行為につき追認をするか否かを確答すべき旨の催告をした場合において、Bがその期間内に確答をしなかったときは、Bが追認したものとみなされる。 イ AC間の売買の合意が錯誤によって無効であるときは、Bは、Aの無権代理行為を追認することができない。 ウ BがAに対して追認をする意思表示をした場合において、Cが、これを知らなかったときは、Cは、Aに対して、無権代理行為を取り消すことができる。 エ AC間の売買の合意がされたときにAの無権限を知らなかったCが、これを取り消した後においては、Bは、追認することができない。 オ BがCに対して追認をする意思表示をした場合において、契約の効力が発生する時期について別段の意思表示がされなかったときは、契約の効力は、追認をした時から生ずる。 1 アウ 2 アオ 3 イエ 4 イオ 5 ウエ 【解説】 ア 誤り アの肢では、無権代理行為の相手方であるCから、本人Bに対して無権代理人Aのなした行為につき追認するか否かを確答すべき旨の催告がなされている。 これは、民法114条前段の催告に該当する。 そして、この民法114条前段の催告がなされた場合の効果について、同条後段が定める。 同条後段は「この場合において、本人がその期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなす。」と規定する。 したがって、民法114条後段によると、本人Bがその期間内に確答をしなかったときは、本人Bは追認を拒絶したとみなされるので、これを追認したものとみなすとするアの肢は誤りである。 イ 誤り イの肢では、無権代理行為であるAC間の売買の合意が錯誤により無効であるという事実が存在する。 かかる事実は本人による無権代理の追認に影響を及ぼすのか、ということがイの肢の問題である。 この点、本人による無権代理の追認については、民法113条が定める。民法113条1項は「代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。」とし、同2項は「追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。」とする。 とすると、この民法113条の追認の要件で、無権代理行為に錯誤無効の瑕疵があったとしても、追認できなくなるという要件は定められていないので、本人が追認をすることは民法113条には抵触しない。 そして、代理の有効要件としては、@顕名A代理行為が有効であることB代理権の存在、が必要とされており、無権代理においてはBの瑕疵があるとされる。他方、無権代理行為が錯誤無効であることはAの瑕疵に該当する。 とすると、本人が民法113条に基づいて追認をしても、Bの瑕疵が治癒されるのみで、Aの瑕疵はなんら変化をもたらされないことになる。したがって、本人による追認を認めても、錯誤無効に何ら影響を与えないので、これを格別に禁止する意味はない。 よって、イの事情である無権代理行為が錯誤無効であるという事情があっても、本人は民法113条に基づき追認をすることは、同条の要件を具備し、かつ法の趣旨に何ら抵触しない以上、認められる。 以上から、イでは、追認することができないとする点で、誤りである。 ウ 正しい ウの肢で、本人Bは無権代理人Aに対して追認の意思表示をしている。 かかる事実は、民法113条2項本文の要件に該当する事実であり、相手方が、同条項ただし書に該当する事実である「相手方がその事実を知ったとき」に該当しない限り、追認があることを相手方に対して対抗することができない(民法113条2項本文)。 本件Cは、追認がなされたことを知らなかったというのであるから、ただし書の適用はなく、本文の効果が生ずる。よって、本人BはCに対して追認をしたことを主張することができない。 その結果、相手方Cとの関係では、いまだ追認がなされていないことになるので、無権代理の相手方の取消権(民法115条)の要件である「本人が追認をしない間」を具備することになる。 したがって、民法115条に基づき、無権代理行為の相手方Cは契約の取り消しをすることができる。 なお、民法115条の取り消しは、いわゆる撤回を意味するとされているので、その取り消しの相手方は、本人であっても可能であると解される。 エ 正しい エの肢では、AC間の売買の合意がされたときにAの無権限を知らなかったCが、取消をしている。これは、前述ウにおける民法115条の取り消しである。 エの肢の事情のもとにおいては、同条ただし書である「契約の時において代理権を有しないことを相手方が知っていたとき」には該当せず、また、本人による追認も今だなされていないので、Cによる取消は民法115条の要件を具備し、有効である。 この民法115条に基づく取消の効果については、条文上明らかではないが、いわゆる撤回の意味と解されている。そして、かかる撤回がなされた場合には、契約がなかったものとなるので、無権代理行為が存在しないこととなる結果、本人による民法113条に基づく追認はなしえない。 したがって本人Bは追認しえないとするエの肢は正しい。 オ 誤り オの肢では、本人Bから契約の相手方Cに対して追認がなされている。かかる追認は民法113条1項に該当し、113条2項に該当する事実も存在しないので、有効に効果を生じているものと解される。 かかる追認が有効に効果を生じた場合の、その効果については、民法116条が定める。民法116条は「追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。」と規定する。 民法116条は「追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。」と規定する。 オでは、契約の効力が発生する時期について別段の意思表示がされなかったのであるから、民法116条によると、追認の効力は、契約の時に遡って生ずることになる。 したがって、追認をした時から生ずるとするオの肢は誤りである。 |
(H13-3) Aが、実父Bを代理する権限がないのに、Bの代理人と称してCから金員を 借り受けた。この事例に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に 照らして正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。なお、Cに は、Aに代理権がないことを知らなかったことに過失があるものとする。 ア Bが死亡し、AがBを単独で相続した場合、Cは、Aに対し、貸金の返還を請求することができる。 イ Aが死亡し、BがAを単独で相続した場合、Cは、Bに対し、貸金の返還を請求することができる。 ウ Bが死亡し、AがBの子Dと共にBを相続した場合、Dが無権代理行為の追認を拒絶しているとしても、Cは、Aに対し、Aの相続分の限度で貸金の返還を請求することができる。 エ Bが死亡し、AがBの子Dと共にBを相続した場合、Dが無権代理行為を追認したときは、Cは、A及びDに対し、貸金の返還を請求することができる。 オ Bが無権代理行為の追認を拒絶した後に死亡し、AがBを単独で相続した 場合、Cは、Aに対し、貸金の返還を請求することができる。 【解説】 ア 正しい アの肢におけるCのAに対する貸金の返還請求の根拠は、本人Bとの間で締結された金員の借り入れにより、Bが貸金債務を負っており、単独相続によりAが債務を承継したことにあると考えられる。 この点、人の死亡により相続が開始し(882条)、相続により被相続人の権利義務を相続人は包括承継する(896条本文)。そして、Bが死亡した場合、その実子であるAは相続人であるから(887条1項)、AはBの負担する債務につき承継する。ところが、このCが主張するであろうBの債務は、Aが実父Bを代理する権限もないのに、Bの代理人と称してCから金員を借り受けたことにより生じたものである。 したがって、Aの代理はBから金員借り入れにつき代理権を授与されていない以上、無権代理に該当し、本人Bに効果帰属していない。その結果、Bはそもそも債務を負担していないことになる。 そこで、Aとしては、効果不帰属を主張して、Cの請求を拒むことが考えられる。しかし、かかる主張を自ら無権代理行為を行ったAが行うのはあまりにもおかしい。 判例は、本人の地位を承継したAにつき、本人自ら法律行為をしたのと同様の地位を生じ、当該無権代理行為を当然に有効になると解している。 したがって、判例の趣旨に照らした場合、本人Bの地位を相続により承継したAは、無権代理による効果不帰属を主張しえず、Bのもとに生じた債務を相続により承継する結果、Cの請求を拒むことができない。 よって、Cは、Aに対し、貸金の返還を請求することができるので、アの肢は正しい。 イ 誤り アの事例とは異なり、イの事例では本人が無権代理人を相続している。 この事例においても、Cは無権代理人Aがなした借り入れに基づいて、Bに対して貸金の請求をなしていくことになる。 これに対して、本人Bは無権代理行為であるから、追認拒絶権(113条)を行使し、その請求を拒むことが考えられる。 このBの反論に対し、アの事例の処理をもとに、相手方Cは、法律行為は相続により当然に有効となるので、追認拒絶権を行使できないとの再反論をすることが考えられる。 果たしてこのようなCの反論は妥当なのか、前述アの判例が、このような本人が無権代理人を相続した場合にも妥当するのか問題となる。 この点、判例は、本人は、自らの地位に基づき追認拒絶することを認める。 すなわち、アの肢の判例と同じ処理は行わず、当然に法律行為が有効になることを認めなかった。したがって、CはBに対し、貸金の返還を請求することはできないので、イの肢は誤りである。 なお、この場合、本人Bが追認拒絶したものの、無権代理人の地位を相続により承継しているので、無権代理人の責任(117条1項)を負担することになる。 とすると、117条1項に基づき、本人Bは、契約の相手方Cからの履行請求又は損害賠償の請求を受けることになる。 このことを加味した場合、Cは、Bに対し、貸金の返還を請求することができるともいえそうであるが、117条1項の責任は契約上の責任ではなく、法定の責任であるから、同条の「履行」についても法定の責任として履行を請求できるにすぎないと解すべきであろう。「貸金の返還」というイの肢の表現は、そのような法定の責任としての「履行」を意味するものではなく、契約上の責任を追及することを意味すると解すべきであり、その意味において、イの肢においては、契約は無権代理として契約上の責任を追及できない以上、イを誤りと解すべきである。 ウ 誤り ウの肢では、アと異なり、無権代理人Aの単独相続ではなく、Dと共同相続している。 共同相続の場合も、アと同様の処理となるのか問題となる。 この点、判例は、共同相続の場合には、無権代理行為を追認する権利は、その性質上、共同相続人全員に不可分的に帰属するので、共同相続人全員が共同して行使する必要があるとした。 したがって、無権代理人の相続分についてのみ追認があると解することはできず、その相続分の限度であっても有効な法律行為とならないとした。 よって、Cは、Aに対し、Aの相続分の限度で貸金の返還を請求することはできず、ウの肢は誤りということになる。 エ 正しい エの肢は、ウの肢とは異なり、共同相続人であるDが追認をしている。 この場合も、ウと同様の処理となるのか。 この点、判例は共同相続人が追認している場合には、無権代理人である共同相続人が追認を拒絶することは、信義則に反し許されないとする。 したがって、共同相続人が追認した場合には、無権代理人が追認をしなくても、当然に法律行為が有効となる。 その結果、CはA及びDに対し、貸金の返還を請求することができるので、エの肢は正しい。 オ 誤り オの肢では、アの肢とは異なり、本人が追認拒絶した後に死亡している。 この場合、アと同様の処理として、本人が死亡し、無権代理人が相続したことで当然に法律行為が有効となるのか。 この点、判例は、本人が追認拒絶した上で、死亡した場合には、無権代理行為は当然に有効とならないとする。 この場合、法律行為は無効で確定しているのであるから、契約の無効を無権代理人が主張することは信義則に反しないと解されるからである。 したがって、Cは、Aに対し、貸金の返還を請求することができず、オの肢は誤りである。 なお、この場合、Cは、Aに対して無権代理人の責任(117条1項)を追及しうるが、このことは、「貸金の返還を請求できる」ことを意味しないことは前述アで述べたとおりである。 |