Lesson 1
(H9-1) 成年被後見人・被保佐人に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。 1 成年被後見人は、成年後見人の同意を得てした行為(日常品の購入その他日常生活に関するものを除く)を取り消すことができるが、被保佐人は、保佐人の同意を得てした行為を取り消すことができない。 2 成年被後見人が成年後見人と利益の相反する行為をしたときは、成年後見人は、その行為を取り消すことができるが、被保佐人が保佐人と利益の相反する行為をしたときでも、保佐人は、その行為を取り消すことができない。 3 他人の任意代理人として代理行為をするためには、成年被後見人は、成年後見人の同意を得ることが必要であるが、被保佐人は、保佐人の同意を得ることを要しない。 4 成年被後見人又は被保佐人が、相手方に能力者である旨を誤信させるため詐術を用いた場合、成年後見人は、成年被後見人の行為を取り消すことができるが、保佐人は、被保佐人の行為を取り消すことができない。 5 成年被後見人は、成年後見人が追認した行為も取り消すことができるが、被保佐人は、保佐人が追認した行為を取り消すことができない。 【解説】 1 正しい 行為を取消できるか否かは、行為に取消原因があるか否かによって決まる。 成年被後見人が行った行為については、民法9条が定めを置いている。 この民法9条は「成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。」と規定する。 したがって、成年被後見人のなした法律行為は、成年後見人の同意の有無にかかわらず、取消原因があることになる。 よって、成年被後見人が同意をした行為であっても取消ができる。 次に、被保佐人が行った行為については、民法13条が規定する。 民法13条1項は「被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。」と規定する。そして、民法13条4項は「保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。」と規定する。 したがって、保佐人が同意をした行為については、被保佐人の行為に取消原因がないことになる。 よって、被保佐人が、保佐人の同意を得てした行為は取消すことができない。 以上から、1の肢は、前段後段ともに正しい。 2 誤り 成年被後見人が成年後見人と利益の相反する行為をした場合については、民法は規定を設けていない。 被保佐人が保佐人と利益の相反する行為をした場合についても、同様である。 これらの場合、利益の相反することが取消原因となっていないので、取消することはできない。 よって、2の肢は誤りとなる。 なお、民法が規定を設けているのは、成年後見人が成年被後見人と利益の相反する行為をした場合や、保佐人が被保佐人と利益の相反する行為をした場合である。 3 誤り 民法102条は代理人の資格について「代理人は、行為能力者であることを要しない。」と規定する。 この規定は、代理人については行為能力者であることを要しないとするものであると解されている。 したがって、制限行為能力者であっても任意代理人になれるとされている。 その結果、制限行為能力者が任意代理人となる場合には、制限行為能力者による制限は受けないと解されている。 よって、成年被後見人、被保佐人が任意代理人となることに無制限とならない以上、その代理人としてなした行為について同意をえることは要しない。 以上から、3の肢は誤りである。 4 誤り 民法21条 は「制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。」と規定する。 よって、成年被後見人又は被保佐人という「制限行為能力者」が相手方に能力者である旨を誤信させるために詐術を用いた場合には、21条が適用される。 したがって、21条により取消をすることができない。 以上から、肢4は、成年被後見人について取消すことができるとしている点で誤り。 民法21条が「被保佐人が」ではなく、「制限行為能力者が」と規定しているということを知っていると楽勝。 5 誤り 民法122条は「取り消すことができる行為は、第百二十条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。 ただし、追認によって第三者の権利を害することはできない。」と規定する。 よって一度、追認がなされたものについては、もはや取消原因がないことになる。 したがって、すでに有効な追認がなされた場合、だれも取消権を有しないことになるので、取消をすることができ ない。 以上から、5は成年被後見人が、成年後見人が追認した行為ついても取消すことができるとしている点で誤り。 |
(H9-2) 代理に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。 ア Aの代理人Bが相手方Cとの間で売買契約を締結した場合、Cの意思表示がAの詐欺によるものであったときでも、Bがその事実を知らなかった場合には、Cは、その意思表示を取り消すことができない。 イ Aが代理人Bに特定の動産を買い受けることを委託し、BはAの指図に従って相手方Cからその動産を買い受けた場合において、Cが無権利者であることをAが知っていたときは、Bがその事実を知らず、かつ、それに過失がなかったとしても、その動産の即時取得をすることはできない。 ウ AC間の取引で、Aの代理人Bが、Cの代理人Dに代理権がないことを知らないことに過失があったとしても、Aは、Dに対し無権代理人の責任を追及することができる。 エ Aの代理人Bが自己の利益を図るため権限内の行為をした場合において、相手方CがBの意図を知ることができたときは、Aは、Cに対しBの行為について無効の主張をすることができる。 オ Aの代理人Bの代理行為が、相手方Cとの通謀虚偽表示に基づくものであった場合において、Aがそのことを知らなかったときは、Cは、Aに対しその行為について無効の主張をすることができない。 1 アイ 2 アオ 3 イエ 4 ウエ 5 ウオ 【解説】 ア 誤り Cの意思表示はAによる詐欺に基づくものであるから、Cとしては96条1項に基づき詐欺取消を主張していくことになる。 ところが、この詐欺はAによりなされたものであって、直接契約行為を行った代理人Bが行ったものではない。 したがって、Aは反論として、第三者の詐欺(96条2項)に該当するとして、相手方であるBが善意でなければならないと主張することが考えられる。 民法96条2項は、「第三者が詐欺を行った場合」とし、「相手方がその事実を知っていた」と規定するので、アの肢において、「第三者」、「相手方」が誰かということが問題となる。 この点、本人が詐欺した場合については、96条2項は適用されず、96条1項で処理されると一般に解されている。 これは、代理の場合の本人が96条2項の「第三者」に該当しないとし、96条2項の適用を否定し、96条1項による処理を行うものである。 やはり、本人は代理人を利用して利益を享受する立場にあることからすれば、96条2項の「第三者」に該当しないものと考えるのが妥当であろう。 96条2項は、第三者により詐欺された者と、詐欺を原因とする意思表示の相手方の保護を調整した規定であり、意思表示の相手方に詐欺による不利益を被らせることが不都合と考えられた結果、善意の相手方の場合には詐欺取消を認めないとしたものである。 とすると、本人が詐欺し、代理人が法律行為を善意でやった場合には、96条2項の趣旨は妥当しないと考えるべきであり、96条2項の適用を否定することは妥当といえよう。 イ 正しい 動産の即時取得(192条)が適用されるためには、取引行為の相手方が前主が無権利であることにつき善意・無過失であることが必要である。 イの肢では、代理人Bは前主Cが無権利であることにつき善意・無過失であるが、AはCが無権利であることにつき悪意であるので、民法192条の適用が認められるのか問題となる。 この点、民法101条は代理行為についての主観的要件の検討につき、誰を基準とするかについて定めている。 まず1項は「意思表示の効力が意思の不存在、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。」と規定する。 したがって、即時取得では、前主が無権利者である事情について、知っているか知らないことに過失があったことが影響するのであるから、1項の適用が認められ、代理人の主観により決せられることになる。 他方2項は「特定の法律行為をすることを委託された場合において、代理人が本人の指図に従ってその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。」と規定する。 ところが、イの肢では、本人Aが代理人Bに対し、特定の動産を買い受けるよう委託し、BはAの指図に従って、代理行為をなしたという事情があるので、2項が適用され、1項の適用は排除される。 よって、101条2項により、即時取得の成否は、本人の主観を基準として決せられるところ、本人AはCの無権利について悪意であるから、即時取得(192条)の要件を具備しない。 したがって、イでは即時取得は認められないので、認められないとするイの肢は正しい。 ウ 誤り 無権代理人の責任(117条)を追及するためには、代理人の無権限であることについて善意・無過失であることが必要とされる。 すなわち、民法117条2項は「前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。」とする。 したがって、代理人の無権限であることにつき、善意・無過失が要求されることになるが、その善意・無過失を誰を基準として判断するのかが問題となる。 この問題点については、前述イと同様の処理になる。 そこで、ウの肢についても、イと同様に、民法101条の適用により処理することになるところ、ウでは、本人Aによる指図等の事情がないので、101条2項は適用されず、原則である1項が適用される。 したがって、代理人の主観を基準に判断されることになるところ、代理人Bは相手方の代理人Dに代理権がないことを知らないことにつき過失があるので、117条2項が適用され、117条1項の適用が排除される。 よって、本人Aは、Dに対して117条1項に基づく責任を追及しえないので、これを追及できるとするウの肢は誤りである。 エ 正しい エの肢では、Aの代理人Bが自己の利益を図るために権限内の行為をなしている。このような行為は代理権の濫用に該当するとされる。 この代理権の濫用について民法は規定を設けておらず、判例は、93条但書を類推することで処理している。 すなわち、代理行為の相手方が代理人の意図について悪意もしくは有過失である場合には、本人は代理行為の無効を主張できるとする。 これをエの肢についてみると、代理人Bの濫用の意図について、相手方Cが知ることができた場合には、93条但書が類推適用されるので、本人は相手方Cに対しBの行為について無効の主張することができる。 よって、これを肯定するエの肢は判例の趣旨に合致するものであるから、正しい。 オ 誤り オの肢では、Aの代理人Bが相手方Cと通謀虚偽表示(94条1項)を行っている。 したがって、民法101条1項の適用がなされ、この代理行為は無効となるのが原則である。 この無効による不利益を被る本人としては、自己が民法94条2項の「第三者」に該当するとし、善意の第三者との関係では無効を対抗しえないので(94条2項)、CはAに対し行為についての無効の主張ができないと反論することが考えられる。 この本人Aによる反論が認められるのかがオの肢が扱っている論点である。 この点判例は、94条2項の「第三者」につき、通謀虚偽表示に基づく法律関係について、新たに法律上の利害関係を有するに至った者と解している。 そして、代理行為における本人は、「新たに」法律上の利害関係を有するに至ったとはいえないので、94条2項の「第三者」に該当しないと解されている。 したがって、94条2項は適用されないので、94条1項の原則どおりの処理となる。 よって、相手方Cは、94条1項に基づいて、本人Aに対して無効主張ができるので、無効の主張ができないとするオの肢は、誤りである。 |
(H11-4) 次の対話は、自己契約・双方代理の禁止に関する教授と学生の対話である。 教授の質問に対する次のアからクまでの学生の回答のうち、判例の趣旨に照ら し正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。 教授:民法第108条の規定によって保護される利益は何だと考えますか。 学生: ア 不当な契約を一般的に防止しようとする公益だと考えます。 イ 不当な契約から生ずる損害を避ける当事者の利益だと考えます。 教授:それでは、民法第108条に違反してなされた法律行為の効力はどうなりますか。 学生: ウ 無効となり、追認をすることはできません。また、本人が事前に双方代理の行為について同意を与えることはできません。 エ 無権代理となり、追認をすることができます。また、本人が事前に双方代理の行為について同意を与えていれば、代理行為の効力は本人に及びます。 教授:それでは、法律行為の代理人の選任をその相手方に委任する契約の効力はどうなりますか。 学生: オ 法律行為の内容や委任契約がされた経緯などから、代理人の選任の委任が無効とされる場合があります。 カ 相手方や相手方と同一の代理人を代理人として選任することをしなければ、その代理人の代理権が否定されることはありません。 教授:不動産の所有権移転の登記の申請について、同一の司法書士が登記権利者と登記義務者の双方の代理をすることが可能とされているのは、なぜですか。 学生: キ 登記の申請について、同一人が登記権利者と登記義務者の双方の代理をすることは、原則として民法第108条に違反するので、許されませんが、申請者双方の同意を得ている場合には、それが許されるからです。 ク 登記の申請は、既に効力を生じた権利変動の公示を申請する行為であり、民法第108条ただし書にいう「債務の履行」に準ずる行為に当たるからです。 1 アウオキ 2 アエカク 3 イウカキ 4 イエオキ 5 イエオク (参考) (自己契約及び双方代理) 第百八条 同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。 【解説】 教授の質問一番目 肢イが正しい 教授の一番目の質問は、民法108条の趣旨について問うものである。 判例は、民法108条の趣旨について、自己契約・双方代理により本人が損害を被ることを防止する趣旨であるとする。 よって、不当な契約から生ずる損害を避ける当事者の利益とするイの肢が正しい。 教授の質問二番目 肢エが正しい 民法108条は「同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。」と規定する。 よって、民法108条違反の法律行為の効果がどのようになるのかについては、明文上不明である。そこで判例で争われた。 この点判例は、108条違反の法律行為は無権代理となり、無権代理の規律が及ぶとした。 したがって、本人は、民法113条1項により追認が可能であり、事前の承諾は事前の代理権授与行為であり、有権代理となる。 よって、無権代理となり、追認をすることができ、また、本人が事前に双方代理の行為について同意を与えていれば、代理行為の効力は本人に及ぶとするエの肢が正しい。 教授の質問三番目 肢オが正しい 法律行為の代理人の選任をその相手方に委任する契約とは、契約の当事者である本人が、その契約の相手方に対して、契約締結行為の代理人の選任を委任する契約である。 この委任契約の履行の結果、本人の代理人が相手方により選任され、その代理人と相手方が契約し、本人に効果帰属することになる。 この本人の代理人と相手方との代理行為は、民法108条に形式的には該当しない。しかし、本人の代理人は、契約の相手方が選任しているのであるから、実質的には同一の法律行為につきその相手方の代理人になったといいうる。 そこで、本来なら本人の代理人と相手方との間の代理行為の効力が問題となりうるはずであるが、それ以前の本人から契約の相手方との間でなされた代理人選任についての委任契約それ自体の効力を民法108条により否定しえないかがこの教授の質問である。 すなわち、契約の相手方に対する委任契約に対してまでも民法108条に実質的に反するとして無効としえないか問題となる。 この点、判例は、事案の内容に即して本人に不利益をもたらすか否かを実質的に判断して、当該委任契約が有効であるか否かを検討すべきとする。 したがって、法律行為の内容や委任契約がされた経緯などから、代理人の選任の委任が無効とされる場合がありうるので、オの肢が正しい。 なお、この肢は非常に難しい。なぜなら、本来民法108条が予定されている代理の無効ではなく、代理人の選任を無効としうる判例の知識が問われているのであり、ある意味108条の適用範囲の一番外延に位置するものと思われるからである。 したがって、択一で出題されたからといって必ず押さえねばならない知識なのかといえば、そうではないと判断する。現にオが分からなくても、イ、エは分かり、4,5の肢に絞られる。 そして、4.5では、オは両者で必要とされているので、このオの知識が要求されているとは思われない。変に細かい知識まで押さえようとするとこのオまで押さえることになるが、そういうことを試験は要求していない趣旨が表れているといえよう。 教授の質問四番目 肢クが正しい 「民法上の代理」とは、法律行為を代理するものをいう。 この点、登記の申請行為は公法上の行為であって、民法108条の「法律行為」にそもそも該当しないので、「民法上の代理」には該当しない。従って、108条の制限は及ばないことになる。 また、108条の趣旨は本人の利益保護を図ることにあるが、登記申請については双方を代理したとしても本人の利益を害するおそれはない。従って108条の法意にも反しない(判例)。なお、判例は「法意」という表現を使っている。これは、登記申請行為が「民法上の代理」に当たるわけではないことから108条の適用を前提とした議論ができないものの、申請者双方を代理することが108条の趣旨に実質的に反しないことを表すためにこのような表現を用いていると思われる。 とすると、すくなくとも、判例は、申請者双方の同意を得ているから有効になる(キの肢)と解しているのではなく、民法108条本文及びその法意に反しないとしている点で、そもそも108条の適用がないと解しているものといえよう。 したがって、かかる判例の趣旨からすると、キよりもクのほうが正しいといえよう。 |
(H12-3) Aは、Bの代理人として、Cとの間で金銭消費貸借契約及びB所有の甲土地に抵当権を設定する旨の契約(以下両契約を合わせて「本契約」という。)を締結した。 この場合における次の1から5までの記述のうち、誤っているものはどれか 1 Aが未成年者であることについて、Cは本契約が締結された当時から知っていたが、Bは本契約の締結後に知った場合、Bは、Aの無能力を理由として本契約を取り消すことができる。 2 BがAに対し、代理人として金銭消費貸借契約を締結する権限は与えていたが、甲土地に抵当権を設定する権限を与えておらず、Cもこれを知っていた場合、Bが追認しない限り、設定した抵当権は無効である。 3 Aが借入金を着服する意図でCとの間で本契約を締結し、Cから受領した借入金を費消したが、CもAの意図を知っていた場合、設定した抵当権は無効である。 4 本契約がAのCに対する詐欺に基づくものである場合、Bがこれを過失なく知らなくても、Cは、本契約を取り消すことができる。 5 本契約が第三者DのAに対する強迫に基づくものである場合、Cがこれを 過失なく知らなくても、Bは、本契約を取り消すことができる。 【解説】 1 誤り 1の肢でBによる取消しの対象となっている行為は、AがBの代理人として締結したCとの間の抵当権設定契約である。 AはBの代理人としてCとの契約を締結しているので、この抵当権を設定している契約はいわゆる代理行為に該当する。 この代理行為に関しては、民法102条が規定を設けている。 この民法102条は「代理人は、行為能力者であることを要しない。」と規定しており、この規定は、代理行為について行為無能力制限制度の適用はないことを意味するものと解されている。 具体的には、代理行為について行為無能力者が締結したとしても、その代理行為は行為無能力を原因とする無効・取消の対象とならないことを意味する。 したがって、Bは代理行為を未成年者取消しという行為無能力を原因とする取消しをすることができず、1ではまさに行為無能力による取消しを本人Bができるとしているのであるから、1の肢は誤りである。 2 正しい BはAに対し、代理人として金銭消費貸借契約を締結する権限を与えていたところ、AはCと抵当権設定契約を締結している。 Aは甲土地に関し、抵当権を設定する権限は有しないので、このAのなした抵当権設定契約は越権代理として、無権代理に該当する。 この無権代理の効果については、民法113条に規定がある。 民法113条1項は「代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。」と規定する。 したがって、無権代理については本人が追認(113条1項)をしない限り効力を生じない。 そして、越権代理の場合について、民法110条は表見代理が成立することを認める。この表見代理が成立した場合、無権代理の瑕疵は治癒されるとする。 しかし、110条の要件として、代理行為の相手方の善意・無過失が要求されるところ、本件代理行為の相手方であるCは、Aが無権限であることについて知っていたのであるから、Cについて110条の適用はない。 以上から、2の肢においては、110条の適用がないので、113条の要件を具備した場合のみ、抵当権設定契約は有効となる。 よって、本人Bが追認しない限り、設定した抵当権は無効となるので、2の肢は正しい。 3 正しい 3の肢で、代理人Aは、借入金を着服する意図でCとの間で本契約を締結している。 代理の成立要件は、@顕名があることA代理権が存在することB代理行為が有効であることの三つである。 したがって、代理人Aが前述したような意図を有することは、三つの要件のいずれをも否定する事実ではないため、有効に代理が成立することになるのが原則である。 しかし、このような不届きな代理人によってなされた法律行為の効果が本人に有効に効果帰属することは、本人の利益を害しかねない。 そこで、このような意図を有する場合には、代理権の濫用に該当し、その法律効果は本人に帰属しないものと解されている。 ただ、代理権の濫用について定めた規定がないので、その法律構成をどのように解するのかについては争いがあり、判例は93条但書を類推適用して処理する。 この93条但書類推適用の処理によれば、代理行為の相手方が、代理人の濫用の意図につき、悪意もしくは善意・有過失の場合には、代理行為は無効になるとされる。 3の肢では、相手方CがAの前述の意図を知っているのであるから、代理権の濫用による93条但書の類推適用が認められる。 したがって、AC間の抵当権設定契約は代理行為として無効であり、設定した抵当権は無効となるので、3の肢は正しい。 4 正しい 4の肢では、本契約がAのCに対する詐欺により為されている。 法律行為が詐欺に基づいてなされた場合、96条1項が適用され、詐欺された者は取消しをすることができる。 したがって、4の肢で詐欺されたCとしては、96条1項に基づき、本契約を取り消すことが考えられる。 しかし、本人Bとしては、代理人Aが詐欺したことにより、本契約が取り消されるという不利益を被るのは納得いかない。 そこで、本人Bは、96条2項を持ち出し、代理人による詐欺は第三者による詐欺として、96条2項が適用され、本人Bが善意であるから、詐欺取消をすることができないと主張していくことが考えられる。 それが、4の肢の問題点である。すなわち、96条1項が適用されるのか、96条2項が適用されるのかである。 この点判例は、代理人がなした詐欺につき101条1項を適用し、解決している。 すなわち、民法101条1項によると、代理行為における契約当事者は代理人であり、代理人は96条2項にいう「第三者」に該当せず、96条1項を適用し、解決をしている。 以上から、本人Bによる96条2項の適用は否定され、96条1項により、相手方Cは本人Bがこれを過失により知らなくても、取消しをすることができる。 5 正しい 5の肢では、本契約が第三者Dによる強迫により締結されている。 この第三者による強迫がなされた本契約の効力については、民法は規定を設けていない。 したがって、民法96条1項が直接適用され、Cがこれを過失により知らないという事実は、Bによる取消しに何ら影響を及ぼさない。 したがって、本人Bは、本契約を5の肢においても取消しすることができるので、5の肢は正しい。 |
(H14-4) Aは、Bの任意代理人であるが、Bから受任した事務をCを利用して履行し ようとしている。この事例における次の1から5までの記述のうち、正しいも のはどれか。 1 AがCを復代理人として選任する場合には、Cは、意思能力を有することは必要であるが、行為能力者であることは要しない。 2 AがBから代理人を選任するための代理権を授与されている場合にも、AがBのためにすることを示してCを代理人として選任するためには、Bの許諾又はやむを得ない事情が存することが必要である。 3 AがBの指名によりCを復代理人として選任した場合には、Aは、Cが不適任であることを知っていたときでも、その選任について責任を負うことはない。 4 Aがやむを得ない事情によりBの許諾を得ることなくCを復代理人として選任した場合には、Cの復代理人としての権限は、保存行為又は代理の目的たる権利の性質を変更しない範囲における利用若しくは改良行為に限られる。 5 Aから復代理人として適法に選任されたCの法律行為の効果がBに帰属するためには、CがAのためにすることを示して当該法律行為をすることが必要である。 【解説】 1 正しい AがCを復代理人として選任する場合、これは代理人による復代理人の選任であるが、民法は選任できる場合の要件を定めるものの、選任行為それ自体に規律を設けていない。 したがって、通常の代理人と同様に処理を行うものと解する。 通常の代理人の選任については、本人と代理人の間で代理権授与の無名契約が締結されると一般に解されている。 したがって、この無名契約の有効要件を具備することが、選任の要件といえる。 そして、契約の主観的有効要件としては、意思能力を有することが必要とされ、行為無能力者の行為も取消し等の対象とされているので、行為能力者であることも要求されるのが原則である。 しかし、代理において民法102条は「代理人は、行為能力者であることを要しない。」と定めるので、行為無能力者であっても、代理権授与契約という無名契約は有効になるものと解される。 したがって、無名契約の有効要件、すなわち選任の要件としては、代理人の意思能力があれば足り、行為能力は要しないので、1の肢は正しいといえる。 2 誤り まず、AがBから代理人を選任するための代理権を授与されているということは、Bは1でのべた代理権授与契約の代理権を有しているものと解される。 このような代理権授与契約も無名契約として法律行為の一種である以上、法律行為の代理は許容される。 したがって、代理権授与契約の代理権を有するAは本人Bのためと示して(顕名)、相手方Cと代理権授与契約(代理行為)を締結することができる。 そして、2の肢の後段は、Bの許諾又はやむを得ない事情が存在することが必要とするが、これは復代理人を選任できるための要件(104条)である。 2の肢は復代理ではないので、民法104条は適用されない。したがって、これを必要とする2の肢は誤りである。 さて、このように解説を書いたものの、イメージがわかないかと思うので、多少補足を加える。 この平成14年の問題文の最初に、「Aは、Bの任意代理人である」と事案が設定されている。この事案をもとに、2の肢を考えてみると、2の肢は、このAの任意代理権を基礎づける代理権授与契約について代理権を与えられた代理人のお話ということである。 場面設定を間違えると混乱するので、要注意!! 3 誤り AがBの指名により復代理人を選任した場合、代理人であるAの責任については民法105条2項が定める。 民法105条2項は「代理人は、本人の指名に従って復代理人を選任したときは、前項の責任を負わない。ただし、その代理人が、復代理人が不適任又は不誠実であることを知りながら、その旨を本人に通知し又は復代理人を解任することを怠ったときは、この限りでない。」と規定する。 したがって、その選任について責任を負うことがあるので、3の肢は誤りである。 4 誤り Aがやむを得ない事情により、Cを復代理人に選任した場合、その復代理人の権限については、特に規定がない。 したがって、復代理人一般の権限と同様に解されるので、民法107条の規律を受ける。 民法107条1項は「復代理人は、その権限内の行為について、本人を代表する。」と規定し、同2項は「復代理人は、本人及び第三者に対して、代理人と同一の権利を有し、義務を負う。」と規定する。 よって、復代理人の権限は代理人のそれと同一であるから、保存行為又は代理の目的たる権利の性質を変更しない範囲における利用若しくは改良行為に限られず、4の肢は誤りとなる。 なお、4の肢に掲げる権限は、代理人の権限を定めなかった場合の権限の範囲として民法103条で規定されているものと同様である。 したがって、代理人Aの権限に定めがなかった場合には、民法103条が適用される結果、その復代理人の権限も民法103条の範囲内となるのは当然である。 5 誤り 復代理人として選任された者が、本人に法律効果を帰属させるためには、どのような顕名が必要かについて条文で定められているわけではない。 そして、前述した民法107条2項の規定によると、復代理人の権限は代理人の権限と同一であるから、その本人のためにする顕名についても同様の要件で認められるものと思われる。 したがって、復代理人は代理人と同じ方法で顕名すれば、本人に効果帰属させることができ、特に代理人のためにすることを示して法律行為をする必要はないので、これを必要とする5の肢は誤りである。 |
(H15-4) 後見、保佐及び補助に関する次のアからオまでの記述のうち、誤っているも のの組合せは、後記1から5までのうちどれか。 ア 後見開始の審判及び補助開始の審判は、いずれも、本人が請求することができる。 イ 成年被後見人がした行為は、日用品の購入その他日常生活に関する行為であっても、取り消すことができる。 ウ 家庭裁判所は、保佐開始の審判において、保佐人の同意を得ることを要する法定の行為に関し、その一部について保佐人の同意を得ることを要しない旨を定めることができる。 エ 保佐人の同意を得ることを要する行為につき、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないのに同意をしない場合には、被保佐人は、家庭裁判所に対し、保佐人の同意に代わる許可を求めることができる。 オ 保佐人及び補助人は、いずれも、家庭裁判所の審判により、特定の法律行為についての代理権を付与されることがある。 1 アエ 2 アオ 3 イウ 4 イオ 5 ウエ 【解説】 ア 正しい 民法第7条は後見開始の審判について「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。」と規定する。 そして、民法第15条1項は補助開始の審判について「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、補助開始の審判をすることができる。ただし、第七条又は第十一条本文に規定する原因がある者については、この限りでない。」と規定する。 よって、第7条、第15条1項、により、本人はそれぞれ後見開始の審判若しくは補助開始の審判につき請求権者となっているので、1は正しい。 イ 誤り 民法9条は「成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。」と規定している。 したがって、民法9条但書により、日用品の購入その他日常生活に関する行為については取消すことができない。 よって、民法9条但書から、イは誤り。 ウ 誤り 民法13条1項は保佐人の行為能力について「被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。」と規定する。 他方で、民法17条1項は補助人の行為能力について「家庭裁判所は、第十五条第一項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求により、被補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、その審判によりその同意を得なければならないものとすることができる行為は、第十三条第一項に規定する行為の一部に限る。」と規定する。 このように補助人については、補助人の同意を得ることを要する行為の範囲について、家庭裁判所が審判で定めるとの条文があるが、保佐人についてはそのような規定はない。 したがって、保佐人が同意を得ることを要する行為の範囲については、家庭裁判所は審判で定めることができると定めた規定はなく、そのような範囲を定める権限を家庭裁判所は条文上有していないことになる。 よって、ウの肢について定めた条文はないので、ウの肢は誤り。 このように択一は条文の規定を知っているのか否かを聞いている問題ばかりである。 エ 正しい 民法13条第3項は「保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。」と規定する。 よって、民法13条第3項から、エは正しい。 オ 正しい 民法876条の4第1項は「家庭裁判所は、第十一条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求によって、被保佐人のために特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。」と規定する。 また、民法876条の9第1項は「家庭裁判所は、第十五条第一項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求によって、被補助人のために特定の法律行為について補助人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。」と規定する。 よって、保佐人については民法876条の4第1項、補助人については民法876条の9第1項から, 家庭裁判所の審判により、保佐人、補助人に対して特定の法律行為についての代理権を付与することができるので、オは正しい。 なお、民法876条の4第1項、876条の9第1項の規定は、「特定の法律行為」について代理権を付与できる旨定めるだけであるので、13条等で行為能力が制限されている行為以外のものについても 代理権を付与することができる点は注意すべし。この点、補助人については同意を要する行為の範囲につき、17条1項で、「第十三条第一項に規定する行為の一部に限る。」としていることとの違いはケアレス・ミスしやすいので注意。BR> |
(S58-2) 民法法人に関する次の記述中、誤っているものはどれか。 1 遺言をもって寄附行為をしたときは、寄附財産は、遺言の効力が生じた時から法人に帰属したものとみなされる。 2 定款の変更は、主務官庁の認可を受けなければ、その効力を生じない。 3 定款に総会の決議により理事を任免することができる旨の定めがない限り、総会において理事の任免に関する決議をしても、その決議は、効力を生じない。 4 寄附行為をもって解散した財団法人の財産の帰属権利者を指定せず又は指定する方法を定めていないときは、理事は、主務官庁の許可を得てその財団法人の目的に類似した目的のためにその財産を処分することができる。 5 監事は、法人と理事との利益の相反する事項に関して法人を代表する。 【解説】 1 正しい 遺言をもって寄附行為をした場合に、法人に寄附財産が帰属する時期については、民法42条2項が定める。 民法42条2項は「遺言で寄附行為をしたときは、寄附財産は、遺言が効力を生じた時から法人に帰属したものとみなす。」と規定する。 よって、1の肢は、民法42条2項に合致するものであるから正しい。 2 正しい 定款の変更が生じた場合に、定款の変更の効力が発生する要件としては、民法38条2項が定める。 民法38条2項は「定款の変更は、主務官庁の認可を受けなければ、その効力を生じない。」と規定する。 よって、2の肢は、民法38条2項の条文に合致するものであるから正しい。 3 正しい 民法37条によると、理事の任免に関する規定は定款の絶対的記載事項とされ(37条5号。財団法人については39条が37条を準用。)、理事の任免は定款または寄付行為に定められた規定に従ってなされることになる。 従って、定款・寄付行為に「総会において理事の任免の決議をする」旨の定めがない限り、総会において理事の任免に関する決議をしても、その決議は、効力を有しないことになる。 よって、3の肢は正しい。 4 正しい 寄附行為をもって解散した財団法人の財産の帰属権利者を指定せず又は指定する方法を定めていない場合、その残存財産の処分については、民法72条2項が定める。 民法72条2項は「定款又は寄附行為で権利の帰属すべき者を指定せず、又はその者を指定する方法を定めなかったときは、理事は、主務官庁の許可を得て、その法人の目的に類似する目的のために、その財産を処分することができる。ただし、社団法人にあっては、総会の決議を経なければならない。」と規定する。 よって、理事が主務官庁の許可を得てその財団法人の目的に類似した目的のためにその財産を処分することは民法72条2項に合致するので、4の肢は正しい。 5 誤り 法人と理事との利益の相反する事項については、民法57条が定める。 民法57条は「法人と理事との利益が相反する事項については、理事は、代理権を有しない。この場合においては、裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、特別代理人を選任しなければならない。」と規定する。 よって、法人と理事との利益が相反する事項について、法人を代表するのは特別代理人であって監事ではなく、5の肢は民法57条に反するので誤り。 |